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2011 04,05 11:31 |
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緩やかな渓流のかたわらにあって、水と常に寄り添う河辺。
無数に散らばる砂利の中に、"もの思う小石"があった。 ーーーーーーー 『俺には手も足も無いが夢見ることは出来る。 俺の夢はこの川の対岸へ渡り別の世界をこの体で感じることだ。』 ーーーーーーー 小石は常に心泡立つ者だった。 ーーーーーーー 『俺には目玉もないから、この川の流れを眺めることは叶わないが、音の振動を感じることで川の深さや幅を想像して楽しんでいる。 そしてその想像は、まんざら外れているわけでもないだろう。 透明な水下の藻をかき分け、魚がいそいそと探し物をする。 夏には直下する陽光を反射する水面の鏡。 その温度で俺たち河辺の石ころは灼熱の地獄だが、夕方に降る雨は俺たちの火照った体を優しく洗い流してくれる。 そうしてやがて秋になる。 おもしろいもので、俺たち河辺の小石の大半は、秋になったことに気付かない者が多い。 それは、ともすれば、秋という季節が、夏の日の夕暮れに似ているからかもしれない。 木々の葉が乾きはじめ、抵抗することなく風に乗り始めた頃、皆ようやく気づきはじめるのだ、今が秋という季節であることを。 すぐに風が冷気を運んで来るだろう。 それはそれは冷たい風だ。 この頃になると、辺りから動物たちの息づかいが聞こえなくなる。 川も、やがて流水の音を閉ざし、かつての饒舌さは影を潜める。 これが冬というものだ。 喧騒はしばしの休息。 凍えんばかりの寒さが訪れる訳だが、この静けさは、なかなかに悪いものではない。 朝には時折、地中より押し出される霜柱の茎が、俺の体を散歩させてくれることもある。 その突然の褒美に、俺は内心踊りたくなるほどに嬉しいのだが、残酷なことに俺は踊りというものを知らずに今日に至る。 雪が降り積もり、しびれるほどの寒さの中にあっても、楽しみとは静かに存在するものだ。 それらを見つめよう。 けして抗うことなく。 そうして春を待とう。 あたたかな春が来るのを。 雪解けの音を待つのだ。 川の時間がゆっくりと動き出すのを待つのだ。 川が再びぎこちない流れを紡ぎ出す頃、川辺には草花の赤子が、ここはどこですか?というような表情で顔を赤らめる。 ご覧なさい、これが春の世界ですよ、と眠りから覚めたカエルたちが草花たちに教えて回るだろう。 野兎や熊たちが、乾きを癒やさんと川に集う。 春の宴のはじまりだ。 川面はこの時期、喜びに満ち溢れる。 鳥の鼻歌。 蛇も陽気に踊り、蟻は春蜜の酒を探しに出かける。 俺はこの季節が好きだ。 大地に振動が戻るこの季節が。 これらの終わりと始まりは大自然との間に交わされた固い契約。 例えいくつかの過ちを犯したとしても、この契約が洗い流してくれる。 そして新たにはじめるのだ。 【生きる】という我らの仕事を。』 ーーーーーーー 突然、一羽の鳥が中空より川辺へ舞い降り、"もの思う小石"を捕らえた。 なぜその鳥が石を掴んだか、その真意は知らない。 木の実と取り違えたか。 或いは気まぐれの戯れだったか。 兎に角、鳥は、もの思う小石を掴むと、一気に中空へとさらった。 もの思う小石は、その重力圧に心地よさを感じた。 ほんの数秒ではあったが、小石は空を飛んだ。 空を飛び、放物線を描き、着地したのは川の対岸だった。 ーーーーーーー 『ほう。 ではこの先の千年は、再びあの対岸に戻ることを夢見るとしよう。 さあ、春は始められた。 我らも仕事をしよう。 生きるという仕事を。』 PR |
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