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2010 05,12 21:30 |
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イラスト/テクノローラー_MONSTER(魍魎)
■第四楽曲『Maria』http://www.youtube.com/watch?v=VzkkOP9Buas まず、視界よりも先に聴覚が反応した。 俺の聴覚に飛び込んできたのは壮大な歌。 次に視覚が動作した。 俺は自分の正気を疑った。 それは膨大な数のテクノピープル。 数百万。。。 プレガンドの言った数のテクノピープルはここにいたのか。 数百万のテクノピープルが口ずさむ歌の周波が、ドームの空間という空間を振動させていた。 そいつらが隙間もないほどに並んで、うつろな状態でドームの中央に向かっている。 ドームの中央では何やら儀式が行われているらしい。 この距離からだと目視で計測出来ないが、なにやらおぞましい事が行われている雰囲気は察知出来た。 俺がこれまで数日間居たあの涼しげな階とはうってかわり、ここは黒が支配する闇の世界だ。 下方よりの光は眩しく、機械の規則的な発光ではなかったので妙に感じたが、その答えはすぐに出た。 俺たちの足下には床があったが、その床はドーム中央に伸びる大きな橋だった。 そしてその橋の下は溶岩。 燃え盛る溶岩が魍魎(もうりょう)たちを照らす唯一の灯りとなり、怒りと憎しみが地中より突き上げていた。 まさに地獄。 俺がもし体液を分泌出来る体であれば、畏怖の汁(しる)がにじんでいたに違いない。 俺とプレガンドは、魍魎たちの間をやつらと同じようにドームの中央に向かった。 俺は次第に落ち着きを取り戻し、ようやく周囲を少しずつ分析し始めた。 こいつらはなんだ。。。狂気に満ちてやがる。 それにこの歌。 俺はこの歌が(マリア)を賛美する歌である事に気付いていた。 俺の周囲の者たちも口々に彼女の名を旋律に乗せ、うつむきながら歩いている。 マリア。。。。マリア。。。マリア。。。。 それはぞっとする光景だった。 【これがドミナント。。。】 俺は思念スクリーンの中で呟いた。 俺は間違っていた。 ただのレジスタンスではなかった。 狂気の新興宗教集団だった。 怨霊ですらこの緊迫感には耐えきれまい。 【彼らはたしかにドミナントだった。以前はね。】 思念スクリーンでプレガンドが答えた。 秘密回線とはいえ、低い音域を使っていた。 【以前?】 【百年ほど前から兆候が現れ始めた。はじめはただ単にマリアに信仰を寄せる集団だった。数もたいした事はなかったのでさほど気にも留めていなかった。】 俺はまだプレガンドにすら完全に警戒を解いた訳ではない。 【彼らは《ユニゾン》。マリアを神と崇め奉る狂気の集団だ。こっちを見るな。。前を向いて歩くんだ。】 俺はプレガンドの言う通りにした。 【それから、彼らと(目を合わせて)はいけないよ。けっして。】 【あんたと奴らが違うと言う保証がどこにある。】 俺は冷ややかさを込めて奴に言った。 【昔は仲間だった。ドミナントとして同じ秘密を共有し、共にマリアの保護に勉め、長い年月をかけてこの地下施設を作ってきた。しかしマリアの慈しみに触れるにつれ、彼女への愛が極限まで高まった者たちがいた。愛が悲しみとともにあるならまだマシだった。マリアのような、生と死を持つ神秘の肉体を脱ぎ去った悲しみと共にあるならば。。。。しかし彼らの愛は怒りや憎しみと共にあった。その怒りや憎しみの矛先は当然の如くマザーネットへと向けられた。。その為の軍備も進められている。】 【軍備。。】 【そうだ。信仰とともにそれらの技術も発展した。しかし信仰とはいえ、彼らは盲目的にマリアを信奉しているに過ぎない。自分たちも儀式を重ねれば、彼女のように再び(肉)を纏えると思っているんだよ。】 【そんな事が可能なのか?】 【いや。無理だ。我々ドミナントは永きにわたりその研究を続けた。彼女と友好的な対話を重ね、彼女の生態を解剖する事なく外側から分析した。研究の段階で発明されたテクノロジーもいくつもある。彼女の遺伝子との融合も試みたが失敗だった。我々と彼女とでは決定的に違うのだよ。】 【それは何だ?】 【。。。魂、、、とでも言おうか。】 【何?】 突如、ひと際大きなマグマの破裂が、俺たちの後ろにいた奴を襲った。 炎に包まれながらそいつは喜びに満ちた声でマリアの名を叫び、煉獄へ落ちていった。 オオオオオオ。。。。 周囲から、叫びが広がった。 そしてマリアを讃える歌はより一層強大さを増した。 マリア。。マリア。。。 【歩くんだ。止まらずに。】 プレガンドは続けた。 【今や施設の最下層(つまりこの階層)と一つ上の階層は彼らユニゾンによって掌握された。上の階層は軍備施設だ。彼らは増大の一途を辿っている。我々は恐れたよ。彼らは狂気そのものだ。いずれ地上に出て、布教活動を始めるのではないか。そうなればマリアの存在はマザーネットの知るところとなり、この施設の発見も時間の問題となるだろう。我々はこの数年警戒態勢をとって来た。それはいつ始まるのか。そして一昨夜、テクノシティに潜伏していた我々の仲間から『始まった』と連絡があった。ユニゾンが地上での活動を開始した。】 しかし疑問があった。 【マザーネットはなぜマリアを狙う?】 おれは奴に聞いた。 【(創世記)の話をしたね。】 【ああ。】 【あの創世記によって隠蔽(いんぺい)された歴史があったとしたらどうだろう?】 【隠蔽された歴史だと?】 俺の電子頭脳の中で記憶と言う記憶が交錯し始めた。 太古から現在に至るまでの、悲しみや痛み。 そういったネガティブな領域が俺を占領し始めた。 こんな時に。。。!! 俺はこの時ほど自分がキー・スティッカー(※メジャー・キー常習者の事)であることを呪った事はない。 俺の体は新たな薬物を欲しがる地雷を踏んでしまった。 手が小刻みに震え始めたので、気付かれないようローブの中に隠した。 禁断症状だ。 プレガンドの声が奇妙なエコーを伴って聞こえるようになってしまっていた。 いうことをきけ!! おれは自分の体に言って聞かせた。 俺がもしここで、この禁断症状に耐えきれなくなって発狂した状態を連中のまえに晒したら、、 その異変にこの魍魎どもはどう反応するのだろうか? 俺だけじゃなくプレガンドもただではすまないだろう。 いや。。。 こいつは俺の事を見捨てるだろうか? 《ゼロツー。。。ゼロツー。。。》 背後から俺を呼ぶ声がして振り返った。 そして俺は。。。 プレガンドが【けっして見るな】と言った奴らの瞳を覗き込んでしまった。。。 憎しみに燃えた目。 それはマグマだった。 その目はニヤリとわらうと、 《居た。。。。》 そう言った。 地の底からにじみ出るような太鼓の音が俺を打った。 1つ。。 ズム。 2つ。。 ズム。 魔拍子(まびょうし)は次第に速度を増す。 ズム。ズム。ズム。ズム。 その速度が俺の内部の循環器のリズムを超えた時、思念スクリーンの中で警告音が鳴り始めた。 魔拍子が頂点に達した。 次の瞬間、地底から生身の肉を纏ったコウモリが一斉に飛び立って俺をめがけて飛んできた。 俺は必死になってそれを払った。 ついにドームの中央の司祭らしきテクノピープルが俺に気付いた。 こちらを睨んでいる。 憎悪。 憎悪の目だ。 炎。 こんな目を見たのは初めてだ。。。 これほどまでの憎しみを抱える事が出来るものなのか。。。 俺は霊力に呪縛されていた。 そいつは言った。 《待っていたぞ。》 ゼロツー。 【ゼロツー。しっかりしろ、もうすぐだ。】 プレガンドの声で俺は我にかえった。 幻覚。。。 いやしかし、もう幻覚と現実の区別すらつかない。 地鳴りのような歌が俺の電子頭脳を麻痺させはじめていた。 はやく、、はやくこの歌から逃れたい。 【彼だ。彼が司祭だ。】 プレガンドが言った。 俺はそいつを見上げた。 そいつは通常のテクノピープルの倍はあろうボディを持っていた。 おそらくクラーケンといえどこいつには適わないのではないだろうか。 モンスター。 そんな形容が相応しかった。 俺はフードの境から、目を合わせないようにそいつの瞳を見た。 幻覚と同じ憎悪の目だった。 【彼の名はルシファー。この狂気の発信源だ。】 テクノピープルは列を作ってルシファーの元へ行き、祈りを捧げるとその足下から何かを拾い上げているようだった。 何を拾っているかは確認出来なかった。 大事そうに懐にしまうと別の橋で帰っていった。 時折ルシファーによって選り分けられた者がいた。 その者は五体を鎖につながれると五方向に引き裂かれ、亡骸はマグマに放り込まれた。 生け贄だった。 殺人儀式。 【ああすることで自分たちの中に《霊波(れいは)》を取り込めると思っている。まやかしの術だ。】 俺たちの順番が来た。 俺は前にいた者と同じ行動をした。 ルシファーの足下にひざまずき、(形だけの)祈りを捧げた。 プレガンドも同様だった。 生け贄に分類されるのではないか気が気じゃなかった。 しかしプレガンドは 【大丈夫だ。我々が生け贄になる事はない。彼は私を知っているから。】 と言った。 言葉通り、俺たちは生け贄にならずに済んだ。 そして振り向き、前にいた者と同様に拾い上げる物を見た。 それを見て俺は時間が止まったように思えた。 その物体はメジャー・キーのコンパクト・アンプル(すぐに使用出来る針のついた状態のアンプル)じゃないか。。。。 前にいた者が振り返った時、一瞬だったが目が合ってしまった。 いや、一瞬だったが俺ははっきりとそいつの目を見た。 そいつの瞳は小刻みに震えていた。 こいつらはキー・スティッカー(※メジャー・キー常習者の事)だ。。。 俺は。。 俺は。。。 【どうした?拾いたまえ。】 プレガンドが秘密回線を通じて背後から語りかける。 俺は動けずにいた。 困惑していた。 しかし禁断症状は限界に近い。 すぐにでもこいつをやりたい。。 【何を躊躇している。誰も咎めはしない。ここでやりたまえ。それは許されている。】 俺はメジャー・キーを手に取ると、コンパクト・アンプルの針を自分の眼球に刺した。 激痛。 いや、今は。。 眼球の激痛よりも、声を発したい。その方が苦痛だった。 俺は必死になって痛みと声を自分の中に封じ込めた。 やがて、、、 夜が明けるのだろう。 それまでは、、 何も感じずにいたい。 ※公式サイト更新しました。 PR |
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