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2010 04,16 09:47 |
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【19時05分】 エルビス。。。 あんたやっぱり俺の神だ。 最高だよ。 力強くて、どこまでもでかい。 そう思いながらモニター画面を見ていた。 こちら放送局。 持参したデッキを接続して、今、《俺たちの他には》人っ子一人いない館全体にエルビス・プレスリーの映像を放送してる。 そいつは引っ込み思案だった『俺』が発信する記念すべき第一回放送だ。 俺もあんたみたいな男だったら良かったのに。 俺はいい父親じゃあなかった。 おれはいい夫じゃあなかった。 あの時もそうだった。 おれは薬が欲しかった。 俺のガキには薬が必要だったんだ。 そんなちっぽけなカプセル大の贈り物も俺は与えてやれなかった。 だから俺ァ頼りになるって人んとこに案内してもらって、そいで仕事をもらったんだ。 仕事は簡単だった。 頼まれたものを言われた通り人に渡すだけ。 ばかばかしく単純な仕事だが文句は言えない。 大体俺たちみたいなのにはとにかく仕事がないもんだから。 俺の仕事っぷりがいいってんで、俺は必要なときに雇ってもらえるようになったんだ。 荷物を受け取り、運んで、渡す。 荷物を受け取るときに配達先のメモを渡されるから、配達が終わったらメモを燃やす。 それの連続だ。 ただし、配達物の中身は絶対に見てはいけない。 それが約束だった。 俺は他人の物に興味はなかったし、それで家族を養えるんだからと、俺はひとまず満足した。 それでガキの薬も買えたし、とにかく一日食うには困らなくなった。 14インチの小さなテレビも買った。 ビデオと一体になったやつだ。 大好きだったエルビスのCDを買って。 街の不良のガキたちから買った小さなラジカセでそいつをかけた。 そんで少し金を貯めて、女房に使い古しの毛皮のコートも買ってやった。 なにしろあの部屋の冬場の寒さと言ったら。 ボロボロの毛布だけが頼みの綱だったからなあ。 一枚の毛布と、女房の毛皮のコートで3人団子になってテレビを見たんだ。 ストーブなんてあんな物はクソだ。 結局、人間の肌ってもんが一番暖たけぇんだよ。 そう言いながら、ガタガタ震えてた。 いつだったか俺は仕事の仲間に、自分たちみたいなのは一体どうすりゃあ幸せになれるのか尋ねたことがあるんだよ。 そしたら 『金持ちを殺すことだな。』 ってあいつは言ったのさ。 悪い事をするのは全部金持ちだから、と。 『いや、言い方が違うな』 そしてあいつは続けた。 悪いやつが金持ちになるんだ、と。 世の中が不平等で腐りきってるのは全部そいつらのせいなんだと。 『権力ってもんが世間を動かしてんだよ。』 『権力ってなんだ?』 『政治家とか社長みたいなもんだろ。一番信用ならねえやつらさ。』 わかんねえけど、でっけえ力があんだよ、世の中には。 政治なんてもんも結局その力に動かされてんだぜ。 そんでそのでっけえ力は経済って名前だ。 オレもオメエもそんな経済の中で転がってんだよ。 こいつの値打ちを決めんのは金持ちだ。 だから、金持ちを殺すか、金が世の中から無くなるか。 そうすりゃあ俺たちみたいな場所の人間にも、ちったあ幸せってもんが巡ってくるかもしれないぜ。 お前どうするよ? 殺すか?金持ちを。 そう言って笑った。 まあしかし、俺には人殺しなんて出来そうにないし、第一そんな道具もないと思った。 《気を落とすなよ。俺たちだって立派に経済の一員なんだぜ。》 そういうと、『ほれ。』と言って、俺に配達の荷物と配達場所を書いたメモを渡した。 『いいか、なんべんも言うようだがー』 『配達が終わったらメモを焼く。』 そう言って俺はやつの言葉を遮った。 『そうだ。お利口さんなやつだ。』 その時、幸せなんてモンは俺たちみたいのには無縁なもんだと諦める事にした。 テレビがあって、エルビスのCDを聴けるならマシってもんだ。 とりあえずでっけえものには逆らわねえで、流れに身を任せるんだよ。 そうすりゃあ息をしてられるんだから。 何も言わず、何も聞かねえように。 だからうちのガキが俺の配達の荷物をプレゼントと間違えて開いちまった時は心臓が飛び出しちまった。 すぐにやつら俺たち家族を取り囲んだ。 俺はエルビスに誓ってその荷物の中身を見ちゃいない。 そう言ったんだ! けど許しちゃくれなかった。 あいつら3人いて、一人は玄関の外にいて誰か来ないか見張ってて、一人は何もしゃべらなかったけど氷みたいな目をしててこいつが一番怖かった。 もう一人が俺たちにしゃべりかけて、そいつが言うには俺がいつも運んでた荷物は大変なものだったのだそうだ。 俺は本当に中身を見ちゃいないから、聞きたくないって言って耳を塞いだけど、やつらこじ開けて耳元で囁いちまった。 俺、ちびっちまった。。 信じられない事にそいつら警官だったんだ。 ガキがこの世の最後と言わんばかりに泣き叫んでた。 氷みたいな目のやつがガキを黙らせろと言って女房を殴った。 俺はもうダメだと思ったから、いちばんしゃべるやつに飛びかかったんだ。 すると氷みたいな目のやつが咄嗟にブっ放した。 その弾丸は俺の代わりにいちばんしゃべるやつを貫いちまった。 氷みたいな目のやつはすぐに2発目で俺を狙ったけど、引き金を引こうとした時、女房がテレビを氷みたいな目のやつの頭に振り下ろしたんだ。 ブラウン管が砕け、火花が散った。 氷みたいな目のやつは感電してその場に倒れ込んだ。 おれは床に転がってた銃を即座に奪い取り、とどめをさしたんだ。 銃声が木霊した。 もう一発。 やっちまった。。。 外にいたやつは一目散に逃げてった。 おれは2人の死体と問題の荷物を絶対に誰にも見つからない場所に埋めた。 それからはもう無我夢中で逃げた。 3人で。 およそガキに相応しくない場所も点々とした。 でもおれたちはすぐに暗闇の住人にとっつかまり、3人とも目隠しをされて生き埋めにされたんだ。 数時間後俺は地の底から這い上がった。 なぜそんなことが出来たのかいまだに思い出せない。 兎に角地面の中で無我夢中で暴れてたことだけを覚えてる。 地上に出ると、空気を吸うよりも先に素手で地面を掘り始めた。 その下に女房とガキが埋まってるから。 両手の爪が全部はがれ落ちるまで掘った。 しかし女房とガキはもう手遅れだった。 俺は泣いた。 声を出さずに泣いた。 いや、声が出なかった。 思いっきり声を出して泣いてるつもりだったけど、胸の辺りが痙攣したように感情を吐き出させてはくれなかったんだ。 ただただアゴが外れるくらい口を開けたまんまで、顔面の筋肉はつってしまって硬直したまま動かなかった。 もし誰かがその顔を見たなら笑ってると思ったに違いない。 すぐに憎悪が俺の体を満たした。 そして気付くと呪いの言葉だけで支配された。 黒いイバラが俺の体に巻き付いてきて、肉という肉に食い込んでく。 そんで俺はその黒いイバラを切断しようとして、そこらへんに落ちてたガラス片を握ると思いっきり斬りつけたんだ。 俺の胸から腹にかけてざっくり割れた。 黒いイバラは俺の妄想だったんだ。 割れた傷から血が噴き出してたけど、俺は反対に妙に落ち着いてく自分に気付いた。 流れゆく暖かさが眠りを誘った。 そして俺は赤子のように眠ったんだ。 = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = あれからちょうど1年になる。 今朝の空は晴れ渡っていた。 雲一つない。 空は透明に似た青い色をしてた。 午前中のうちに俺はジョギングをした。 体力を保つにはこれに限る。 そして朝食を一人で食べた。 昨日、スーパーで良いタマゴを見つけたから、買っておいた。 だから今朝はそいつで目玉焼きを作った。 半熟で作るつもりが、半生になってしまった。 あいかわらず目玉焼きってのは奥が深い。 トーストをかじりながら新聞を広げた。 経済欄には毎朝欠かさず目を通してきたけど、なにしろ字が読めないから勿論内容はさっぱり解らなかった。 それから煙草を吸った。 長い事禁煙をしてたが、今日一日くらいはと思った。 髪は長い間散髪に行っていないので肩まで伸びていたから、櫛を通し、後ろで縛った。 歯を磨いた。 ひげを剃った。 顔を洗った。 爪を切った。 そしてエルビスのCDを聴きながら今日一日の支度を整えた。 午後。 B街区のとある雑居ビルの一室で、俺の手にしたピストルが火を噴いた。 中にいたやつらはみんな俺の登場に目を丸くしてた。 そりゃあそうだろう。 一年前に死んだと思っていた亡霊が目の前につっ立ってんだから。 俺の復讐が始まった。 俺は知ってる顔に向かって一発ずつぶち込んだ。 一番悪いやつだけは生かした。 そいつに手錠をかけると、ひきずってそこを後にした。 【23時30分】 そんで俺は今ここにいる。 街一番のでっけえ銀行だ。 一番悪いやつも一緒にここにいる。 口にべったりガムテープをしてるから、今はもの言わぬ友人だ。 俺はとりあえず金の方を始末する事にしたんだ。 世の中を狂わせてる経済ってやつの親玉を燃やすことにしたんだ。 俺の胴体には10連のダイナマイトがバインド線とガムテープでぐるぐる巻きにしてくっつけてある。 同じ物を建物の至るとこに仕掛けた。 どこでそんなもん手に入れたのかって? 笑っちまうな。 そう驚く事じゃなかろうに。 ここは夢と希望の街。 幸せ以外ならなんだって手に入る。 そうだろう? あんたもその気になりゃあすぐにその場所が解る。 古い焼肉屋の角を1本裏通りに行くと、、あとは運命があんたをその場所に連れてくだろうさ。 1年前の惨劇の後、俺はすぐあの忌まわしい荷物を掘り返した。 そう、惨劇の発端となったあの荷物。 絶対に人に解らない場所に2体の死体と一緒に埋めたやつだ。 荷物はあった。 そしてすぐに運命に導かれたよ。 そこで爆弾が欲しいと言って、俺が荷物を差し出すと、あいつら喜んで爆弾を調達してくれた。 こいつはおまけだ。 そう言ってピストルもくれた。 おつりの分は現金に換えて、俺はアパートを借りた。 そして一年待ったんだ。 一日に一個、自分の体に傷を刻みながら。 黒いイバラは一回伐っても次の日にはもうオレの体をぐるぐる巻きにするんだ。 だから俺は毎日その手入れをしなきゃいけなかったんだ。 364個のこの自虐の後が、俺を今日まで生かし続けたんだよ。 これは俺の怨念の数だ。 さあ、クライマックスだ。 外で吠えてやがる。 『武器を捨てて投降しなさい。』 笑わせやがる。 いつだって武器で怯えてたのは俺たちの方だ。 今、この部屋にはいくつもの銃口が向けられている。 天井や壁を、狙撃の為の赤い点が這いずり回ってやがる。 赤い点は時折俺の体を掠めることもあったが奴らは撃たなかった。 照準が狂えばビルごと爆発するからだ。 俺を仕留めるには確実に頭を撃ち抜かなくちゃならない。 あいつらが躊躇してるのは容易に解ったよ。 迷いはもう無い 何一つお前たちにしてやれなかったが、これだけは言える。 愛してた。 思い出すお前たちの姿。 お前は街の少し高めのショッピングモールにおめかしをして出かけるんだ。 そりゃあ、誰だって振り向くさ。 お前はサイコーの美人なんだから。 夏場に毛皮のコートだって構やしねえ。 俺たちには俺たちの価値観があるんだから。 それから、3人で時々食事に出かけた。 ファミリーレストランってやつだ。 そこでお前はガキにテーブルマナーを教えるんだ。 きっとお前の前世は、どこかの国の王女だったに違いない。 俺たちの部屋にはいつだって音楽が溢れていた。 時々勝手に電源がOFFっちまうラジカセの前で、俺たちは一緒にエルビスの歌詞を覚えたもんだ。 エルビスはいつだって俺たち家族の神だった。 ある日、カリフォルニアの海岸の写った、旅行会社かなんかのチラシを見て、俺は、 『海はなぜ青いのか?』 ってお前に尋ねた事があった。 お前はガキに乳をやりながら、 『空が青いから?』 って答えた。 空の青さが海に反射してるんだと。 俺はお前の事、ホントに頭のいいやつだって言って自慢して回ったんだ。 それからそれから。。。 俺たちはいつだって体を触り合ってた。 たとえ愛し合ってる時じゃなくても。 お前は俺の顔にそっと触れるんだ。 俺はお前の顔にそっと触れるんだ。 愛を確かめるように。 お前はガキの顔にほおずりをするんだ。 俺はおどおどしながらガキの顔にほおずりをするんだ。 俺が触ったら壊しちまうんじゃないかと思いながら。 思えば、、、。 どうすりゃあ幸せになれるのかばかり考えてたけど、ひょっとすると俺はこの地上で一番幸せな男だったのかもしれない。 そうだろう? お前たちがいなけりゃあ俺は今でも愛を知らなかっただろうから。 今夜、俺はお前たちに最後のプレゼントをする。 それは希望の明日だ。 そこはとても平等な世界だ。 差別の無い、日だまりの世界だ。 こんな俺だ。 そこでもまたお前たちに何も与えてやる事が出来ないかもしれない。 しかしこれだけは言える。 今度はお前たちを守ってみせる。 さあ時間だ。 行こうぜ、新しい朝を迎えに。 こちら放送局。 館内の至る所に設置されたモニターにエルビスが映し出されている。 俺は映像のボリュームをフルにした。 俺の信じる神の歌声が、館内はおろか街全体に響き渡った。 曲は《What Now My Love》だった。 館の扉を開けると、外の光が何の迷いもなく入って来た。 そして俺はとてもまぶしい光の中にいた。 エルビスのように。 見ろ。 街はあんなに明るく見えるじゃないか。 そして俺はピストルの撃鉄を起こすと銃口を明日に向けたんだ。 見ろ。 あれが自由だ。 【23時59分】 銃雷。 Elvis Presley - " What Now My Love" http://www.youtube.com/watch?v=5DG8tAEzaRI PR |
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