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Let's put a new coat of paint on this lonesome ol' town. Set 'em up we'll be knockin 'em down. You wear adress baby,I'll wear a tie. We'll laugh at that ol' bloodshot moon In that burgundy sky(TOM WAITS).
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2012
04,12
13:10
タクシードライバー
CATEGORY[☆日記]
先日ダビング作業のためスタジオに行く時、こりゃどうにも間に合わないとタクシーを使った。
『すいません、〇〇〇〇までお願いします。大至急!』
その区間の距離と最後の『大至急』が運転手さんのアドレナリンの分泌を促進したのだろう。
やけに話しかけてきた。
それでも話の上手な運転手さんで、数分後何故かあんなにピリピリしてた僕まで『焼酎』の話題で盛り上がっている。
『イゾウはいいですね、でも押し入れに入れたんじゃ勿体ないですよ。焼酎は飲んであげないと腐りますからね。』
僕が言う。
僕が九州出身、運転手さんは宮城の人だった。
『それでもウチの近辺はたいした被害はなくてよかったんですよ。』
『そうですか。ほんと日本中どこもかしこも大変です。』
窓から見える桜は満開で、ふたたびの時間を告げていた。
僕は時計を気にしてみたが、この調子でいけば充分間に合いそうだ。
運転手さんはその間もずっとしゃべり続けてる。
僕はだんだん聞き手に回ってる。
それによると、運転手さんはずっと飲み屋を経営していたらしい。
それが不況の煽りで店をたたむことになり、タクシー運転手へ転職したのだとか。
とにかく演劇青年やらの出入りの多い店だったようで、ツケで呑ませてくれと言われると断れないんですよね、と笑いながらの悲鳴だった。
『お金は貸しちゃいけないですよ。貸す時はあげるもんだと思って貸さなきゃね。。。』
運転手さんは白髪まじりの、一口でいえばご老体。
『昔は女の子を雇ってね。高いんですよ女の子は。時給2000円で雇ってたなあ。』
『当時で2000円って高いですね』
いつの当時か解らなかったが、おそらくは昭和の話をしているのだろう。
『例えばボトルがきれた時ね、男の店員はダメだね。ボトルどうしますか?って聞くと、今度でいいやってなる。けど女の子だと、ボトル入れて〜、っていうと、じゃあボトル一本入れといて、といって帰っていく。』
なるほど、僕もかつては新橋のシャンソニエで敏腕のマスターの手ほどきを受けたバーテンの残党だ。
新橋の『アダムス』と言えば、当時はその業界で名前を知らない人はいなかっただろう。
それがあの元気で陽気だったマスターの急死。
僕は外の桜を見ながら、そんなことを思い出していた。
『タクシーの運転手はね、みんなパチンコばっかり行ってるよ。』
『ああ、ぼくパチンコやらないんです。』
『わたしもやらないんですけどね、タクシー仲間の女性運転手なんかもパチンコ狂いで。それでお金なくなるでしょ。お金が欲しいからお金を出してくれる人と会うんですよね。そうするとあとは抱かれるしかないでしょ。』
『ああ、大変ですね』
『特に個人タクシーはお金がいいから時間もあるし、暇を持て余すんですよね。それでパチンコに走っちゃう。』
うん?ちょっと待って。お金が良い?時間もある?
『どのくらい儲かるもんなですか?』
『そうねえ、月に200とか、もちろん個人差はあるけどね。』
詳しく訊いたつもりだが、数字に弱い僕はすぐに忘れてしまったようだ。
しかし感嘆だけははっきりと記憶に焼き付いた。
『そんなに儲かるもんなんですか!!?』
『そうですね。真面目にやればね。だからタクシー運転手をやって、10年運転したら、お前もそろそろ個人タクシーに挑戦してみたらどうだ?って話になるんですよ。だから個人タクシーの人ってみんないいマンションにすんでたりするでしょ。』
『10年?』
『そうですねえ、10年。そうすれば個人タクシーの試験を受けても良いよっていう許可が下りるんです。』
『その10年というのは法律で定められた。。。。』
『そうですそうです。10年がんばって運転すれば許可が下りるんです。』
『おじさんは?』
『ああ、、』
と言って、助手席から分厚いファイルを僕に見せてくれた。
『これは?』
『今、丁度その個人タクシーの試験の勉強をしてるんですよ。たいへんですけどね、、やり甲斐はありますよ。近々試験なんです』
『わ!!』
ご老体の受験生。
そうか、さっきから桜が舞うと思えば、こんな身近に受験生がいたからか。
『この辺りも風景が変わりましたねえ。どんどん新しくなる。ほらあの病院もね、こんなに立派になって。。』
その昔というのを僕は知らない。
その昔を見た老人の目をバックミラー越しに見ている。
『あ、あの郵便ポストの前で停めて下さい。』
『あ、はい。』
タクシーは止まった。
運転手の話も止まった。
ぼくはちょっとした幸福感をいただいた気がしていた。
いや、勇気をもらった気がした。
生きる事に絶望している暇はない。
歩かなきゃ。
どんなにたどたどしくてもいい。
タクシーから降りる一歩を、新しい気持ちで歩いてみようと思った。
『おじさんありがとう。楽しい話だったよ、勉強になりました。』
『ああ、(笑)どうも。こちらこそありがとう御座いました。』
さあ!
ビルの階段を駆け下りる。
数分前、到着。
みんな揃っていた。
『おはよう御座います! 宜しくお願いします。』
さあ、僕の戦いの始まりだ。
[9回]
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