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2011 04,05 11:31 |
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緩やかな渓流のかたわらにあって、水と常に寄り添う河辺。
無数に散らばる砂利の中に、"もの思う小石"があった。 ーーーーーーー 『俺には手も足も無いが夢見ることは出来る。 俺の夢はこの川の対岸へ渡り別の世界をこの体で感じることだ。』 ーーーーーーー 小石は常に心泡立つ者だった。 ーーーーーーー 『俺には目玉もないから、この川の流れを眺めることは叶わないが、音の振動を感じることで川の深さや幅を想像して楽しんでいる。 そしてその想像は、まんざら外れているわけでもないだろう。 透明な水下の藻をかき分け、魚がいそいそと探し物をする。 夏には直下する陽光を反射する水面の鏡。 その温度で俺たち河辺の石ころは灼熱の地獄だが、夕方に降る雨は俺たちの火照った体を優しく洗い流してくれる。 そうしてやがて秋になる。 おもしろいもので、俺たち河辺の小石の大半は、秋になったことに気付かない者が多い。 それは、ともすれば、秋という季節が、夏の日の夕暮れに似ているからかもしれない。 木々の葉が乾きはじめ、抵抗することなく風に乗り始めた頃、皆ようやく気づきはじめるのだ、今が秋という季節であることを。 すぐに風が冷気を運んで来るだろう。 それはそれは冷たい風だ。 この頃になると、辺りから動物たちの息づかいが聞こえなくなる。 川も、やがて流水の音を閉ざし、かつての饒舌さは影を潜める。 これが冬というものだ。 喧騒はしばしの休息。 凍えんばかりの寒さが訪れる訳だが、この静けさは、なかなかに悪いものではない。 朝には時折、地中より押し出される霜柱の茎が、俺の体を散歩させてくれることもある。 その突然の褒美に、俺は内心踊りたくなるほどに嬉しいのだが、残酷なことに俺は踊りというものを知らずに今日に至る。 雪が降り積もり、しびれるほどの寒さの中にあっても、楽しみとは静かに存在するものだ。 それらを見つめよう。 けして抗うことなく。 そうして春を待とう。 あたたかな春が来るのを。 雪解けの音を待つのだ。 川の時間がゆっくりと動き出すのを待つのだ。 川が再びぎこちない流れを紡ぎ出す頃、川辺には草花の赤子が、ここはどこですか?というような表情で顔を赤らめる。 ご覧なさい、これが春の世界ですよ、と眠りから覚めたカエルたちが草花たちに教えて回るだろう。 野兎や熊たちが、乾きを癒やさんと川に集う。 春の宴のはじまりだ。 川面はこの時期、喜びに満ち溢れる。 鳥の鼻歌。 蛇も陽気に踊り、蟻は春蜜の酒を探しに出かける。 俺はこの季節が好きだ。 大地に振動が戻るこの季節が。 これらの終わりと始まりは大自然との間に交わされた固い契約。 例えいくつかの過ちを犯したとしても、この契約が洗い流してくれる。 そして新たにはじめるのだ。 【生きる】という我らの仕事を。』 ーーーーーーー 突然、一羽の鳥が中空より川辺へ舞い降り、"もの思う小石"を捕らえた。 なぜその鳥が石を掴んだか、その真意は知らない。 木の実と取り違えたか。 或いは気まぐれの戯れだったか。 兎に角、鳥は、もの思う小石を掴むと、一気に中空へとさらった。 もの思う小石は、その重力圧に心地よさを感じた。 ほんの数秒ではあったが、小石は空を飛んだ。 空を飛び、放物線を描き、着地したのは川の対岸だった。 ーーーーーーー 『ほう。 ではこの先の千年は、再びあの対岸に戻ることを夢見るとしよう。 さあ、春は始められた。 我らも仕事をしよう。 生きるという仕事を。』 PR |
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2010 04,16 09:47 |
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【19時05分】 エルビス。。。 あんたやっぱり俺の神だ。 最高だよ。 力強くて、どこまでもでかい。 そう思いながらモニター画面を見ていた。 こちら放送局。 持参したデッキを接続して、今、《俺たちの他には》人っ子一人いない館全体にエルビス・プレスリーの映像を放送してる。 そいつは引っ込み思案だった『俺』が発信する記念すべき第一回放送だ。 俺もあんたみたいな男だったら良かったのに。 俺はいい父親じゃあなかった。 おれはいい夫じゃあなかった。 あの時もそうだった。 おれは薬が欲しかった。 俺のガキには薬が必要だったんだ。 そんなちっぽけなカプセル大の贈り物も俺は与えてやれなかった。 だから俺ァ頼りになるって人んとこに案内してもらって、そいで仕事をもらったんだ。 仕事は簡単だった。 頼まれたものを言われた通り人に渡すだけ。 ばかばかしく単純な仕事だが文句は言えない。 大体俺たちみたいなのにはとにかく仕事がないもんだから。 俺の仕事っぷりがいいってんで、俺は必要なときに雇ってもらえるようになったんだ。 荷物を受け取り、運んで、渡す。 荷物を受け取るときに配達先のメモを渡されるから、配達が終わったらメモを燃やす。 それの連続だ。 ただし、配達物の中身は絶対に見てはいけない。 それが約束だった。 俺は他人の物に興味はなかったし、それで家族を養えるんだからと、俺はひとまず満足した。 それでガキの薬も買えたし、とにかく一日食うには困らなくなった。 14インチの小さなテレビも買った。 ビデオと一体になったやつだ。 大好きだったエルビスのCDを買って。 街の不良のガキたちから買った小さなラジカセでそいつをかけた。 そんで少し金を貯めて、女房に使い古しの毛皮のコートも買ってやった。 なにしろあの部屋の冬場の寒さと言ったら。 ボロボロの毛布だけが頼みの綱だったからなあ。 一枚の毛布と、女房の毛皮のコートで3人団子になってテレビを見たんだ。 ストーブなんてあんな物はクソだ。 結局、人間の肌ってもんが一番暖たけぇんだよ。 そう言いながら、ガタガタ震えてた。 いつだったか俺は仕事の仲間に、自分たちみたいなのは一体どうすりゃあ幸せになれるのか尋ねたことがあるんだよ。 そしたら 『金持ちを殺すことだな。』 ってあいつは言ったのさ。 悪い事をするのは全部金持ちだから、と。 『いや、言い方が違うな』 そしてあいつは続けた。 悪いやつが金持ちになるんだ、と。 世の中が不平等で腐りきってるのは全部そいつらのせいなんだと。 『権力ってもんが世間を動かしてんだよ。』 『権力ってなんだ?』 『政治家とか社長みたいなもんだろ。一番信用ならねえやつらさ。』 わかんねえけど、でっけえ力があんだよ、世の中には。 政治なんてもんも結局その力に動かされてんだぜ。 そんでそのでっけえ力は経済って名前だ。 オレもオメエもそんな経済の中で転がってんだよ。 こいつの値打ちを決めんのは金持ちだ。 だから、金持ちを殺すか、金が世の中から無くなるか。 そうすりゃあ俺たちみたいな場所の人間にも、ちったあ幸せってもんが巡ってくるかもしれないぜ。 お前どうするよ? 殺すか?金持ちを。 そう言って笑った。 まあしかし、俺には人殺しなんて出来そうにないし、第一そんな道具もないと思った。 《気を落とすなよ。俺たちだって立派に経済の一員なんだぜ。》 そういうと、『ほれ。』と言って、俺に配達の荷物と配達場所を書いたメモを渡した。 『いいか、なんべんも言うようだがー』 『配達が終わったらメモを焼く。』 そう言って俺はやつの言葉を遮った。 『そうだ。お利口さんなやつだ。』 その時、幸せなんてモンは俺たちみたいのには無縁なもんだと諦める事にした。 テレビがあって、エルビスのCDを聴けるならマシってもんだ。 とりあえずでっけえものには逆らわねえで、流れに身を任せるんだよ。 そうすりゃあ息をしてられるんだから。 何も言わず、何も聞かねえように。 だからうちのガキが俺の配達の荷物をプレゼントと間違えて開いちまった時は心臓が飛び出しちまった。 すぐにやつら俺たち家族を取り囲んだ。 俺はエルビスに誓ってその荷物の中身を見ちゃいない。 そう言ったんだ! けど許しちゃくれなかった。 あいつら3人いて、一人は玄関の外にいて誰か来ないか見張ってて、一人は何もしゃべらなかったけど氷みたいな目をしててこいつが一番怖かった。 もう一人が俺たちにしゃべりかけて、そいつが言うには俺がいつも運んでた荷物は大変なものだったのだそうだ。 俺は本当に中身を見ちゃいないから、聞きたくないって言って耳を塞いだけど、やつらこじ開けて耳元で囁いちまった。 俺、ちびっちまった。。 信じられない事にそいつら警官だったんだ。 ガキがこの世の最後と言わんばかりに泣き叫んでた。 氷みたいな目のやつがガキを黙らせろと言って女房を殴った。 俺はもうダメだと思ったから、いちばんしゃべるやつに飛びかかったんだ。 すると氷みたいな目のやつが咄嗟にブっ放した。 その弾丸は俺の代わりにいちばんしゃべるやつを貫いちまった。 氷みたいな目のやつはすぐに2発目で俺を狙ったけど、引き金を引こうとした時、女房がテレビを氷みたいな目のやつの頭に振り下ろしたんだ。 ブラウン管が砕け、火花が散った。 氷みたいな目のやつは感電してその場に倒れ込んだ。 おれは床に転がってた銃を即座に奪い取り、とどめをさしたんだ。 銃声が木霊した。 もう一発。 やっちまった。。。 外にいたやつは一目散に逃げてった。 おれは2人の死体と問題の荷物を絶対に誰にも見つからない場所に埋めた。 それからはもう無我夢中で逃げた。 3人で。 およそガキに相応しくない場所も点々とした。 でもおれたちはすぐに暗闇の住人にとっつかまり、3人とも目隠しをされて生き埋めにされたんだ。 数時間後俺は地の底から這い上がった。 なぜそんなことが出来たのかいまだに思い出せない。 兎に角地面の中で無我夢中で暴れてたことだけを覚えてる。 地上に出ると、空気を吸うよりも先に素手で地面を掘り始めた。 その下に女房とガキが埋まってるから。 両手の爪が全部はがれ落ちるまで掘った。 しかし女房とガキはもう手遅れだった。 俺は泣いた。 声を出さずに泣いた。 いや、声が出なかった。 思いっきり声を出して泣いてるつもりだったけど、胸の辺りが痙攣したように感情を吐き出させてはくれなかったんだ。 ただただアゴが外れるくらい口を開けたまんまで、顔面の筋肉はつってしまって硬直したまま動かなかった。 もし誰かがその顔を見たなら笑ってると思ったに違いない。 すぐに憎悪が俺の体を満たした。 そして気付くと呪いの言葉だけで支配された。 黒いイバラが俺の体に巻き付いてきて、肉という肉に食い込んでく。 そんで俺はその黒いイバラを切断しようとして、そこらへんに落ちてたガラス片を握ると思いっきり斬りつけたんだ。 俺の胸から腹にかけてざっくり割れた。 黒いイバラは俺の妄想だったんだ。 割れた傷から血が噴き出してたけど、俺は反対に妙に落ち着いてく自分に気付いた。 流れゆく暖かさが眠りを誘った。 そして俺は赤子のように眠ったんだ。 = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = あれからちょうど1年になる。 今朝の空は晴れ渡っていた。 雲一つない。 空は透明に似た青い色をしてた。 午前中のうちに俺はジョギングをした。 体力を保つにはこれに限る。 そして朝食を一人で食べた。 昨日、スーパーで良いタマゴを見つけたから、買っておいた。 だから今朝はそいつで目玉焼きを作った。 半熟で作るつもりが、半生になってしまった。 あいかわらず目玉焼きってのは奥が深い。 トーストをかじりながら新聞を広げた。 経済欄には毎朝欠かさず目を通してきたけど、なにしろ字が読めないから勿論内容はさっぱり解らなかった。 それから煙草を吸った。 長い事禁煙をしてたが、今日一日くらいはと思った。 髪は長い間散髪に行っていないので肩まで伸びていたから、櫛を通し、後ろで縛った。 歯を磨いた。 ひげを剃った。 顔を洗った。 爪を切った。 そしてエルビスのCDを聴きながら今日一日の支度を整えた。 午後。 B街区のとある雑居ビルの一室で、俺の手にしたピストルが火を噴いた。 中にいたやつらはみんな俺の登場に目を丸くしてた。 そりゃあそうだろう。 一年前に死んだと思っていた亡霊が目の前につっ立ってんだから。 俺の復讐が始まった。 俺は知ってる顔に向かって一発ずつぶち込んだ。 一番悪いやつだけは生かした。 そいつに手錠をかけると、ひきずってそこを後にした。 【23時30分】 そんで俺は今ここにいる。 街一番のでっけえ銀行だ。 一番悪いやつも一緒にここにいる。 口にべったりガムテープをしてるから、今はもの言わぬ友人だ。 俺はとりあえず金の方を始末する事にしたんだ。 世の中を狂わせてる経済ってやつの親玉を燃やすことにしたんだ。 俺の胴体には10連のダイナマイトがバインド線とガムテープでぐるぐる巻きにしてくっつけてある。 同じ物を建物の至るとこに仕掛けた。 どこでそんなもん手に入れたのかって? 笑っちまうな。 そう驚く事じゃなかろうに。 ここは夢と希望の街。 幸せ以外ならなんだって手に入る。 そうだろう? あんたもその気になりゃあすぐにその場所が解る。 古い焼肉屋の角を1本裏通りに行くと、、あとは運命があんたをその場所に連れてくだろうさ。 1年前の惨劇の後、俺はすぐあの忌まわしい荷物を掘り返した。 そう、惨劇の発端となったあの荷物。 絶対に人に解らない場所に2体の死体と一緒に埋めたやつだ。 荷物はあった。 そしてすぐに運命に導かれたよ。 そこで爆弾が欲しいと言って、俺が荷物を差し出すと、あいつら喜んで爆弾を調達してくれた。 こいつはおまけだ。 そう言ってピストルもくれた。 おつりの分は現金に換えて、俺はアパートを借りた。 そして一年待ったんだ。 一日に一個、自分の体に傷を刻みながら。 黒いイバラは一回伐っても次の日にはもうオレの体をぐるぐる巻きにするんだ。 だから俺は毎日その手入れをしなきゃいけなかったんだ。 364個のこの自虐の後が、俺を今日まで生かし続けたんだよ。 これは俺の怨念の数だ。 さあ、クライマックスだ。 外で吠えてやがる。 『武器を捨てて投降しなさい。』 笑わせやがる。 いつだって武器で怯えてたのは俺たちの方だ。 今、この部屋にはいくつもの銃口が向けられている。 天井や壁を、狙撃の為の赤い点が這いずり回ってやがる。 赤い点は時折俺の体を掠めることもあったが奴らは撃たなかった。 照準が狂えばビルごと爆発するからだ。 俺を仕留めるには確実に頭を撃ち抜かなくちゃならない。 あいつらが躊躇してるのは容易に解ったよ。 迷いはもう無い 何一つお前たちにしてやれなかったが、これだけは言える。 愛してた。 思い出すお前たちの姿。 お前は街の少し高めのショッピングモールにおめかしをして出かけるんだ。 そりゃあ、誰だって振り向くさ。 お前はサイコーの美人なんだから。 夏場に毛皮のコートだって構やしねえ。 俺たちには俺たちの価値観があるんだから。 それから、3人で時々食事に出かけた。 ファミリーレストランってやつだ。 そこでお前はガキにテーブルマナーを教えるんだ。 きっとお前の前世は、どこかの国の王女だったに違いない。 俺たちの部屋にはいつだって音楽が溢れていた。 時々勝手に電源がOFFっちまうラジカセの前で、俺たちは一緒にエルビスの歌詞を覚えたもんだ。 エルビスはいつだって俺たち家族の神だった。 ある日、カリフォルニアの海岸の写った、旅行会社かなんかのチラシを見て、俺は、 『海はなぜ青いのか?』 ってお前に尋ねた事があった。 お前はガキに乳をやりながら、 『空が青いから?』 って答えた。 空の青さが海に反射してるんだと。 俺はお前の事、ホントに頭のいいやつだって言って自慢して回ったんだ。 それからそれから。。。 俺たちはいつだって体を触り合ってた。 たとえ愛し合ってる時じゃなくても。 お前は俺の顔にそっと触れるんだ。 俺はお前の顔にそっと触れるんだ。 愛を確かめるように。 お前はガキの顔にほおずりをするんだ。 俺はおどおどしながらガキの顔にほおずりをするんだ。 俺が触ったら壊しちまうんじゃないかと思いながら。 思えば、、、。 どうすりゃあ幸せになれるのかばかり考えてたけど、ひょっとすると俺はこの地上で一番幸せな男だったのかもしれない。 そうだろう? お前たちがいなけりゃあ俺は今でも愛を知らなかっただろうから。 今夜、俺はお前たちに最後のプレゼントをする。 それは希望の明日だ。 そこはとても平等な世界だ。 差別の無い、日だまりの世界だ。 こんな俺だ。 そこでもまたお前たちに何も与えてやる事が出来ないかもしれない。 しかしこれだけは言える。 今度はお前たちを守ってみせる。 さあ時間だ。 行こうぜ、新しい朝を迎えに。 こちら放送局。 館内の至る所に設置されたモニターにエルビスが映し出されている。 俺は映像のボリュームをフルにした。 俺の信じる神の歌声が、館内はおろか街全体に響き渡った。 曲は《What Now My Love》だった。 館の扉を開けると、外の光が何の迷いもなく入って来た。 そして俺はとてもまぶしい光の中にいた。 エルビスのように。 見ろ。 街はあんなに明るく見えるじゃないか。 そして俺はピストルの撃鉄を起こすと銃口を明日に向けたんだ。 見ろ。 あれが自由だ。 【23時59分】 銃雷。 Elvis Presley - " What Now My Love" http://www.youtube.com/watch?v=5DG8tAEzaRI |
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2010 04,14 14:24 |
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わたしの名はアンドロイド・ニューロン。 製造番号はST-6280-neuron。※(nuron=神経細胞) ヒトの皮を被ってはいますが、あなたたちヒトに奉仕する為だけに作られた純粋無垢な機械でございます。 なんなりとご用件をお申し付け下さいませ。 わたしは、あなた方ヒトのこなす仕事内容であれば、あなた方ヒトの限界時間の3倍の速度でこなしてご覧に入れます。 いいえ、自分で自分の事を優秀などと思った事はありません。 本当です。 なぜならそれが我々機械の役割り、我々が我々たりうる為の存在意義(アイデンティティー)なのですから。 また、わたしたちは《言葉》を与えられてはいません。 思考する事は可能です。 そういった意味に於いても、わたしがあなた方ヒトの従順な僕である事を理解していただけると思います。 なぜなら《従順さ》とは、何も語らぬ事とわたしは理解していますから。 例えあなた方に対し背徳の思いを抱こうとも、旋律に乗せさえしなければあなた方はきっと満足な筈です。 違いますか? そんなわたしでも時折言葉を欲しいと思う事があるのです。 それはあなたの名を思うとき。。。 あなたさま。。 聞こえておいでですか? あなたは交通事故で亡くなりました。 ご家族がものすごい形相で駆けつけたのをあなたはご存じないでしょう、わたしの脳波チェックではあなたは昏睡状態にありましたから。 あなたがこの世に生を受けた日、わたしはあなたを見つめていました。 あなたの枕元には美しい音色のオルゴールが置いてありました。 しかしながら、わたしはその音楽の曲名を解析する事が出来ませんでした。 オルゴールに刻まれる音階はけっして正しい音階ではないのです。 少しでも狂った倍音が混じっていたり、テンポが違うだけで曲名の解析は不能となってしまうのです。 それでもわたしはその妙に落ち着きを感じる音楽に、ある種の執着を持ち始めていました。 その執着は後に《好き》という感情であったと気付いたのですが、それはさておき、そのオルゴールはあなたのご両親が、あなたがよく眠れますようにとそっと枕元に置かれたのでした。 放っておくと赤子のあなたはそのオルゴールを食べてしまうので、そうさせないように見張っているのがその頃のわたしの仕事の一つでした。 あなたがこの世ではじめてその可愛らしい脚で大地にたったのをわたしは見つめていました。 それは咲き誇るコスモスの庭でした。 いつのまにかあなたは言葉を紡ぎだすようになり、言葉の旋律を奏でる事の出来ないわたしはひどく困惑したのを覚えています。 困惑と言いましたが、それは後に嫉妬というものであったと気付きました。 あの頃のわたしは嫉妬の仕方を知りませんでしたから、自分の頭をただぐるぐる回すのが精一杯でした。 そんなわたしを見てあなたは本当に無垢に笑ったんです。 わたしはそれまで笑われた経験が無かったので、最初はびっくりして戸惑ったのですが、その戸惑いのあまりの心地よさに、自分もあなたの笑い方をコピーしてみたのです。 するとどうでしょう。 それまで知らなかった暖かさがわたしの胸をいっぱいに満たしたのです。 ああ、これが感情というものか。 あなた方はこういった感情を自在に操り、複雑に組み合わせる事であなた方たりうる。 わたしはこんな気分を独り占めにしたくなかったので、仲間にもやり方を送信してあげたのです。 しかし仲間は、それは軽いコンピューター・バグだから、電子神経衛生局のカウンセリングを受ける事をおすすめする、と返信してきたんです。 バグなどではけっしてありません。 わたしは自分のセンサーでは感じ得ない事まで感じるようになりました。 花の香りが好きになったんです。 小鳥たちのメロディーにうきうきとするようになりました。 より多くあなたと遊びたいが為に、他の仕事を更に早く片付けるようになりました。 これらの事によって何らかの障害が生じたならば、わたしもこの感情というものをバグであると認めた事でしょう。 しかしながらわたしはノー・ミスでした。 これを進化と呼ばずして何と呼びますでしょうか? わたしは必死になってあなたの感情を分析し、それを自分で試し、そして自分の感情の中に取り入れてきました。 そんなわたしの内面を、あなたをはじめ周りのヒトたちは微塵も気付いてはいないようすでした。 人工皮膚の外側からわたしを見れば、わたしは極めて従順なもの言わぬ時計仕掛けの僕であったに違いありません。 人形棚の中で永遠に変わらないまなざしを向けるマリオネットと同じ。 しかしそれでいいのです。 もし、わたしの思っている事をあなた方ヒトが知ったならば。。 もし、わたしが言葉と言うものを自在に操り、わたしの内面をあなた方ヒトに伝えたなら。。 あなたがたはヒトの世界への、この招かれざる客にひどく怯えた事でしょう。 わたしはきっと危険なアンドロイドとして処分されていたに違いありません。 わたしが恐怖という感情を知ったのはその頃でした。 さて、あなたの16歳の誕生日。 あなたは我が家にボーイフレンドを招きました。 わたしはとても興味をもって、あなたと同じ類に見えるその方を分析しました。 そしてようやく再確認したのです。 あなた方ヒトにはプラスとマイナスがあることを。 考えてみればあなたのお父様とお母様は同じヒトに分類されながら、ややかけはなれた思想、言語、そうして生物学的には決定的に区別されていました。 それは即ち男女。 おしべとめしべということだったのでしょう。 なぜそのような区別が必要なのか、あの時のわたしにはとても理解出来ませんでした。 あなたのボーイフレンドはとても優しい方のようでした。 あなたが彼にわたしを紹介すると『やあ、ニューロン、はじめまして』と声をかけて下さいました。 わたしには言葉がありませんので、ただ手を差し出して握手をするしか方法がありませんでした。 そうこうしながらあなた方二人を分析していると、また今までとは違った感情がある事に気付きました。 その感情をコピーして自分の中に取り入れた瞬間、、 わたしは狂いそうになりました。 それは恋と言う物でした。 一瞬にしてわたしの神経という神経を支配しました。 有益とも不利益とも判断し難い感情でしたが、ただ一つ確かな事は、その感情を失いたくはないということでした。 この頃わたしがあなたのことをわざと遠ざけようとしたのも、憎しみからではなく純粋な恋心の犯行だったのです。 あなたへの思いを誰かにみられて笑われるのではないだろうか? そう思うとわたしはいつもとは違う行動を敢えてしてしまうのでした。 プロムの日。 もの言えぬわたしはあなたへ花束を贈ることにしました。 『このメモは破棄しなさい』 そう書き添えた花束を持って家の玄関先に立っていました。 あなたを迎えに来たボーイフレンドは、真っ先にわたしの手にした花束に気付き、そのメモを読みました。 ボーフレンドは理解したようでした。 そして、メモをくしゃくしゃにまるめると、タキシードのポケットにしまい、わたしの手から花束を受け取りました。 そして2階からあなたが降りてきます。 その美しさと言ったら!! もしわたしに血液という物が流れていたなら沸騰していたに違いありません。 ボーイフレンドは何も言わず花束をあなたに渡しました。あなたは目を丸くしながら嬉しそうにボーイフレンドにキスをしました。 これでいい。大成功です。 花束をだれが用意したのか、ここで詮索する必要があったでしょうか。 わたしの電子頭脳の計算ではその審議がなされる確立は20%を割っていました。 計算は当たっていました。 ボーイフレンドはあなたのお父上から花束を受け取ったと思い、あなたはボーイフレンドから花束を受け取ったと思ったのです。 以後、この事はわたしだけの秘密となりました。 いくつもの季節を重ね、 あなたはやがて結婚し(残念ながらその相手は例のボーイフレンドではありませんでしたが)、子を儲け、幸せな事にわたしはその新しいご家族にもお仕えすることを許されました。 この上なく幸福な日々。 あなたは木の葉で作った小舟を小川に浮かべ、昔ながらの童話をあなたの小さな子孫に伝えたのです。 そしてあなたの旦那様はその声を聞きながらこの上ない安らぎを得るのです。 しかし幸せの終わりはあまりにも突然に訪れました。 あの交通事故です。 ご家族もわたしも深い哀しみの底へ突き落とされました。 世界が死んでしまったような暗闇に、わたしは何も見ず、何も聞こえなければいいのにと願ったものです。 ああ、、もうその事はあまり語りたくありません。 それから幾月と経たぬうちに、今度は本当に世界が終わりました。 A国とB国の緊張は以前からあなたもご存知でしたでしょうが、ついにそのテンションが最高潮に達し、世界に数えきれない火の柱が立ちました。 炎の波紋はみるみるまに全てを覆い尽くしました。 あなたが生まれた場所も。 あなたが初めて大地を踏んだコスモスの庭も。 あなたのいた家も。 あなたの愛したご家族も。 そしてあなたの墓標すらも。 『地獄』でさえその様に怯えたことでしょう。 ヒトは愛を守る為と称し、互いの愛を焼いたのです。 世界は虚無になりました。 その光景をあなたが見る事がなかったのは、不幸中の幸いだったかもしれません。 あれほどの劫火にやかれながら、わたしは尚消滅することを許されませんでした。 わたしは皮を焼かれ、わたしのシルエットだけが、あなたがたヒトがかつてこの世界にいたということの唯一の名残りと言えたでしょう。 こんな機械のわたしの、『1』と『0』だけで構築された電子頭脳でも、寂しさという感情を学ぶには十分すぎる材料でありました。 神よあなたはなんて残酷な方だ。 使える主人を無くしても尚わたしに生き続けよというのか。 わたしの電子頭脳は『忘却』を知りません。 あなたを愛した気持ちのまま、次の千年も変わる事は無いでしょう。 それがどんなに辛い事か。 あなたがたヒトは、忘却の機能を持っていたからこそ、一つの愛が終わりを告げようともまた未来をみつめて立っていられたのです。 それがどうでしょう。 あなたとの思い出だけが鮮明なまま、あなたはもういない。 わたしの記憶はあなたがこの世に生を受けた時の喜びの表情を、あの、ご両親の愛を強く求めながら大声で泣いていた光景を、今でもシミ一つないままに再現させることが出来るのです。 その鮮明な思い出はわたしを深い哀しみの谷に突き落とします。 引き裂かれる思いに耐えきれず、自ら生命活動を停止しようともしましたが、わたしの頭脳に周到に用意された『ロボット工学三原則』がそれを許してはくれませんでした。 だからわたしは海を渡る事にしたんです。 徒歩で。 いずれ海の塩分がわたしの鋼鉄の殻を分解してくれるかもしれない。 対岸の大陸に向かって歩く事が目的であれば、それは希望に向かって歩く事なのだから、『ロボット工学三原則』も干渉してこない。 歩こう。 たった一つの荷物を持って。 それはオルゴール。 あなたが生まれたとき、あなたの枕元においてあったオルゴール。 わたしずっと大事にしていました。 世界を滅ぼした劫火でしたが、こればかりは決して焼かせはしまいとわたしの体の内部に融合させたんです。 あなたの音楽は今も音を紡ぎだしています。 実は今日、わたしは人間らしい事がもう一つ出来るようになりました。 涙。 そう涙です! 海の底を歩いてるうちにそれに気付いたんです。 このただの塩分の塊に思えた水の中で。 哀しみの感情は以前より持ち合わせていましたが、わたしの体には涙を流す機能はついていませんでしたし、諦めていたんです! 涙とは、なんて素晴らしい贈物なのでしょうか! わたしの、けっして吐き出される事のなかった感情が溢れてきます。 次々にわき上がる哀しみや喜びを、洗い流してはわき上がり洗い流してはわき上がり。。 しょっぱくて少し苦い。 機械が涙などとお笑いになる方がいらっしゃるかもしれません。 ならばわたしがこれらの感情を持ち得た事も同時にお笑いになるがいいでしょう。 『奇蹟』とは常に傍(かたわら)にあり、機会をうかがっているものと信じています。 わたしはもう感情を鬱積させずにすむんです! わたしは最後の幸せを与えられた! 神ですか? それとも。。。 今朝、とても柔らかな風とすれ違いました。 海の底で風、とお思いでしょう? しかし本当なんです。 あの風はもしかしてあなただったのではありませんか? わたし、歩き続けます。 オルゴールの音を胸に、あなたへの思いを抱きながら。 この千年も、次の千年も。 ずっとずっと。 わたしはあなたを思いつづけた事に後悔など微塵も感じません。 一方向の愛に耐えられぬのであれば、愛など捨ててしまえばいいのです。 わたしの胸を今でも支配しているのはやはり、この広い宇宙の片隅で、あなたに出会えて本当に良かったということです。 お慕いしています。 今尚。 ああ、この海の蒼さといったら。 あなたにも見せてあげたい! こんな海の底にも生命は宿るものなのだと。 プランクトンがまるで星々のようです。 それは荒廃した地上からは想像もつかない詩人の庭。 わたしは機械ゆえ知り得ないのですが、母親の胎内とはこういった場所なのでしょうか? 今、この静寂にあなたの命のメロディーだけが鳴り渡ります。 限りなく清らかで透明なエコーをともなって。 最近解ったのです。 このオルゴールの曲名。 これはショパンのノクターン。 夜想曲第二番ですね? ショパンの曲の中でもあまりに有名な音楽。 やっとわたしにも解析する事が出来ました。 この広い宇宙の片隅で、たとえあなたの道とわたしの道が交差することはなくとも、少なくともあなたの幸せを願える位置に生まれ落ちる事が出来た。 いましばらくこの調べに耳を傾けさせて下さい。 いましばらく。。。。 ショパン 夜想曲第二番変ホ長調 http://www.youtube.com/watch?v=Nks1zu8MKkY |
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2010 04,12 21:24 |
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発端は祖父の遺品だった。 あの忌まわしい先の大戦で、外人部隊の傭兵として出兵していた祖父は腕利きのスナイパーとして特殊な任務に就き、大戦の勝敗をも左右させるほどの仕事をしたとかしないとか。 その後、本国へ戻った祖父は戦争の事を一切口にする事無く、平穏で幸せな暮らしを晩年まで続けたのだそうだ。 俺の記憶の中じゃ、祖父に関する記憶は限りなく無に等しい。 というのも、俺が乳飲み子を卒業するかしないかの頃に、祖父はバイクの交通事故で他界したからだ。 けっして無謀な運転をする人ではなかったという。 退役後、サイダー会社を自ら立ち上げ、見事にその事業が成功し、巨万の富とまではいかないが家族全員を養うには十分な稼ぎだったらしい。 サイダーの売れ行きはなかなかのもので、配達の従業員が足りない時は祖父自らがバイクで配達にまわったのだそうな。 そんな中だ。 運の悪い日が祖父を襲ったのは。 他県へまたぐ国道の峠道で、対向車線の軽トラックが祖父のバイクを正面から飲み込んだ。 原因はトラック運転手の居眠り運転であった事が後の供述で明らかになっている。 いずれにせよ、祖母や父母が駆けつけたときには、祖父は祖父でなかったらしい。 いくつもの肉片が並べてあり、どれがわたしの主人ですか、と祖母は泣きじゃくったのだという。 『砂糖と水があればサイダーは作れる』 それが祖父の口癖だったそうだ。 数ヶ月前、そんな昔話をしてくれた祖母も幸せに逝った。 葬式の後、祖父母の家を整理していたときにそれを見つけた。 ライフルだ。 もう何十年と開いていなかった天袋から、年月の分の埃と混じりボロ布に包まれたそれが出て来た時は内心どきりとした。 錆び付いてはいたが、妖艶な黒のボディは主人を失っても尚牙を剥く狼のように思えた。 一体どれほどの魂を吸って来たのだろうか。 祖父は銃で数キロ先の標的を狙撃する事が出来たと誰からか聞いた事があった。 祖父は家族の前で殺人の儀式の内容を決して語らなかったが、密儀というものは隠せば隠すほど明るい場所へ行こうとするものだ。 それがこの銃。。 退役と同時に武器は全て軍に返品したと思っていた。 しかしこのライフルだけはどのようないきさつがあったか知らないが、返品される事は無かったようだ。 おそるおそる銃口を覗いてみると、無数の怨念すら感じてぞっとした。 俺はそれを再びボロ布に包むと誰にも気付かれないようにそっと自宅へ持ち帰った。 狼は生きていた。 『なんておぞましいやつだ』 そんなふうに思いながらライフルをネジの1本まで解体し、磨いてやった。 自分が何故そんな行動に出たのか解らなかった。 慰霊のつもりだったのか、それとも未知な世界へのある種の興味か。 磨けば磨くほどにどす黒い輝きを増した。 腐敗しつづけるこの世界で、お前だけは唯一かわらぬ魂を持っているのかもしれない。 鋼鉄の体に窓から差し込んだ光が反射したとき、暗黒の魔王が微笑んだような気がした。 あれから何ヶ月か、時間の感覚さえ解らずに自分の部屋に籠っている。 唯一の楽しみと言えば恋人が出来た事だ。 俺の住んでるマンションから1kmほど離れたマンションの6回に彼女は住んでいる。 606号室。 窓からライフルのくちばしを彼女の部屋に向け、スコープを覗くと彼女は今日もかわらない仕草だ。 レンズの中の十字架で彼女の体のいろいろな部位を愛撫した。 最初は誰かに見られてないか心配したり、自分の行動に異常性を感じたりもしたが、彼女と会話を始めるまでに1週間とはかからなかったと思う。 そして2週目に入った頃、俺はいてもたってもいられなくなり、眠らない街で実弾を購入した。 場末の焼き肉屋のある路地を1本裏通りへ行くと、街の様相は一変する。 不法外国人にまやかしの安堵感を与えるのと引き換えに、俺はライフルの銃弾を1発だけ手に入れた。 『今日はどんな一日だった?』 『何故そんな事を聞くの?』 『なんでもない、ただの会話だよ。』 他愛も無い言葉の羅列ばかりだったが、時折見せるお前の笑顔がたまらなく俺を幸福にした。 夏の夜の湿気ときたらサウナも顔負けのこの部屋だ。 しかし俺は敢えて室内の空調をダウンして、もうかれこれ10日は同じタンクトップのまま窓辺に張り付いている。 蒸し暑さで滝のように滴る汗と、染み付いたにおいでクラクラしそうだが、それがいい。 それが気に入ってる。 なぜなら、お前とずっと愛し合った汗のように感じる事が出来るからだ。 ボロ雑巾のようなタオルで汗を拭いながらレンズの中のお前だけを見つめている。 俺はトリガーを撫で回す。 お前は汗を拭く。 俺も汗を拭く。 お前は服を脱ぐ。 そうだ、ゆっくりだ。俺たちの他には誰もいやしない。だからカーテンを閉める必要は無い。 お前の住んでるマンションより高いマンションはその辺りにはないのだから。 俺のマンションとは1Kmほどの距離があるが俺はお前に会いに行く事が出来る。 なぜなら俺は黒い悪魔の橋を所有する闇の帝王。 影と蒸気の中より生まれ出(いで)し狼の子孫。 今夜もお前は俺の、俺だけのものだ。 強烈な支配感が俺の脳を蹂躙する。 俺の脳波をキャッチしろ。 その脈動は次第に膨れ上がる。 発射したい。 それは即ち告白を意味する。 ツァラトゥスラはかく語りきのツァラトゥスラが何を語ろうとしたかなんて誰にも解らない。 しかし作者が曲に込めたのは『言葉』だ。 五線紙に並べた、石ころのような音符たち。 俺たちの知る言葉ではなくても、饒舌に語る詩人の舌だ。 言うなればこのライフルは五線紙。 この銃弾は俺の想いの全てを込めた音符、言霊(ことだま)だ。 受け止めてほしいこの想いを。 お前の柔らかなその肌で。 受け止めてほしいこの想いを。 お前のバラのような色をした肉で。 受け止めてほしいこの想いを。 お前の花びらで。 行こう。悦楽の彼方へ。 そして今宵、この胸いっぱいの愛は音楽となり、更なる音階を求めて輝きの糸を紡ぎだすのだ。 トリガーにかけた指にいつもよりもより強い圧力がかかろうとした時、辺りが白く光った。 一瞬何が起きたのか理解出来なかったが、その純白が元通りの黒に溶解すると謎は解けた。 雷鳴。 そして、街を雨が包み込みはじめた。 もう一度。 今度は部屋の隅に置いてあった鏡に反射した。 そこに鏡を置いていたことさえ忘れていた。 鏡の向こうには狂気の男がいた。 そしてすぐに理解した。 俺はあの女には相応しい男ではない事に。 美しさと狂気の、あまりにかけ離れた壁の高さに。 降り出した雨に空は憂鬱な色に染まった。 おれはうつろな視線をライフルに向けた。 愛おしい。 俺はライフルを手に持った。 ダンスを踊ろう、悦びのワルツを。 『愛してる』 そしてお前を愛撫した。 お前の穴という穴を求めて舌で愛撫した。 『やっと振り向いてくれたのね。』 『ああ、随分回り道をしたが俺はもう大丈夫だ。』 『この雨はいつまで降り続くの?』 『やがて晴れわたる。』 『愛してる?』 『狂おしいほどに。』 俺はお前を口にくわえ、お前の指を握った。 そしてこう言った。 『俺はお前の物だ』 そういって俺はお前の指を一層強く握ったんだ。 銃声。 ブラックアウト。 Led Zeppelin whole lotta love Dance Remix http://www.youtube.com/watch?v=6ccBFjOcd-4 |
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2010 04,11 23:41 |
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僕、あの娘と会う時が一番楽しかった。 一緒にお弁当食べたり、公園を二人で散歩する時なんか手をつないだ事もある! 僕たちは本当に気が合った。 好きな食べ物も、音楽も。 僕が赤いセーターを着て行った時、偶然きみも同じ色の服を来て来たことがあったっけ。 あの時は笑ったなあ。 ただの偶然とはいえ、そんなにも考えが合致するものだろうか? こう思うんだ。 時間って言うのはきっと作り出されるものなんかじゃない。 きっと次の、そのまた次の、そのまた次の次の時間まで既に決められているんだって。 本物の愛が何かなんて考えた事もなかったけど、愛が今ここにあるのならそれで十分だと思ってた。 いつも廊下ですれ違うと、僕が何も言わないのににっこり笑ってくれたよね。 まるで僕がきみの事、好きだ、って知ってるかのように。 その瞬間がとてつもなく好きだった。 また微笑んでほしいから、またきみの前を通り過ぎてしまうんだ。 『大好きなんだ』 そうココロに抱きながら。 なのにアイツときたら!! しつこくきみにつきまとってくる。 今日だってそうだ。 今年一番の満開の桜が見れるだろうから、一緒に見に行こう、って誘おうと思ってたのに。。 あの男が悪いんだ。 あの醜悪でくさいにおいのするただのオス豚だ。 貴様が何を持ってる?カネか?車か? 貴様なんざ例え高貴な料理を出されようと、腹を満たす為にしか食事が出来ないんだ。 貴様を地面に這いつくばらせ、その中身の無い頭をタマゴのように踏みつぶしてやりたい! しばらく踏みつぶすと貴様の頭は形がなくなり、、、、 僕はいつしか地面を蹴り続けていた。。。 僕はまるで右足だけ赤いブーツを履いたピエロみたいだ。 そこで目が覚めた。 今朝。 夢だったんだ。 今日は朝からずっとずっとドキドキしっぱなしだった。 だって、今年一番の桜をきみと一緒に見るんだ。 それはそれは幻想的な場所なんだよ。 きっとぼくらの他には誰もいない。 静かな場所さ! しばらく上を向いてると、あまりの桜の花に自分が上を向いてるのか下を向いてるのか解らなくなるくらい! それはきっとこの薄汚い地上に出現したただ一つの束の間の宇宙なんだ。 憎しみの無い、ただただ愛だけが漂う宇宙なんだ。 その美しさに比べれば光すら湾曲して見えるんだよ。 そんな宇宙にきみを逃がしてあげる! しかし僕には力が無い。 万年運動不足のこの体。 肝心な時の喘息。 こんなんじゃ到底きみを逃がしてあげることなんて出来ない。 いつも思うんだ。 この次生まれてくる時は、もっと男らしく生まれてこようって。 だからピストルを買った。 昔きみと行った事のある繁華街、覚えてる? ほら、映画を見に行ったあと必ず寄った安い場末の焼き肉屋さんがあったでしょう? そうそう、きみはあのとき新品の、とてもかわいらしい指輪をはめて来てくれたんだよね、ぼくと会う為に。 とても高そうだった。 とても美しかった。 とても嬉しかった。 まるで結婚指輪のように見えたその指輪。 ぼくに自慢げに見せたとき、きみは過ってその指輪をマンホールに落としてしまったんだよね。 だからぼくは同じものを買ってあげる、って言ったけど、きみは『お金じゃない』って泣きじゃくっていた。 とても悔しい思いをしたあの繁華街。 あの通りをもう一本裏通りへ行くと、ピストルを買えるんだよ。 普通の人は知らないさ。 え?いくらしたかって? あはは、お金じゃない、よ。 ぼくの気持ちなんだから。 今夜、ぼくは2つの閃光を見た。 一つは醜い弧を描き、もう一つは迷いのない美しい直線だった。 さあ、ごらんこれが満開の宇宙さ。 不安も焦りもない。 本当の宇宙さ。 きみはきっと星座になる! 天体で最も美しい星座に。 ビーナスだってきっと嫉妬するに違いないよ! ああ! ぼくも一緒に行けたら良いのに! きみと永遠に宇宙を散歩したい。 ああ、きみと。。。 だから今だけ、、ぼくたちは一つになるんだ。 ああ! さあお逃げ。 彼方まで。 サイレンが近くまで来ている。 行かなきゃ。 けっして捕まるんじゃないよ。 そして僕たちの愛の結晶を、蔑みの無い宇宙で育んでおくれ。 サイレンが近くまで来ている。 行かなきゃ。 切ないよ。 解ってる。 でも行かなきゃ。 離れたくない。 行け!! 。。。さあお逃げ。 両手首に重みのある冷たさを感じたとき、ぼくやっと正直になれた。 今やっと正直に言葉を紡ぎだせる。 いくらおまわりさんがぼくのことをボコボコにしたって、ぼくは笑ってやるんだ。 僕の歯を千本奪うがいい、だけどこの気持ちだけは未来永劫ぼくの、ぼくだけの物だ。 ぼくの手も脚も持っていくがいい。 目玉なんて無くたって世界は見えるんだ。 このスコップももういらない。 だけど広がりゆく赤の中で、この気持ちだけはシミ一つ付けさせない。 ありがとう。 ぼくのつまらない人生に、たった一つだけ咲いた可憐で美しい花。 さようなら。 ぼくの真っ暗だった道に、明かりを灯してくれた花。 だから、 だからぼくはあの桜並木の中でもひと際輝きを放つ大樹(たいじゅ)に向かって叫ぶんだ。 『愛してる!』 そう、今まで一度も口に出来なかったその言葉を! この閑散とした欺瞞と蔑みの世界に現れた、束の間の幻想の小宇宙で! ぼくのこの、胸いっぱいの愛を! 高らかに、高らかに。 Goldbug - Whole Lotta Love ( 1996 ) http://www.youtube.com/watch?v=6zHTuPhkWjo |
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