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2010 05,10 21:41 |
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イラスト/テクノローラー_First Movement(胎動)
■第四楽曲『Maria』http://www.youtube.com/watch?v=VzkkOP9Buas 『マザーネットに騙されてはいけない! あれは大嘘つきだ! 我々は今真の神を見分けなければならない時だ!』 テクノシティの街角で、そう叫ぶ一体のテクノピープルがいた。 高さでいくとテクノビルディングの中程。 地上約300m付近に位置していると思えば解りやすいだろうか。 眼下にブレードエリアの谷を見下ろす地区だった。 中程には中程の、中流ランクのテクノピープルの生活場所である。 『思考を停止した屍(しかばね)たちよ! 今一度思考の糸車を回転させるが良い! マザーネットがもたらしたものは平穏などではない。我々は《肉》の存在を知っている。やがてお前たちにも明らかになることだろう!』 通りを行き交うテクノピープルたちは、回路でも違ったのかとその一体のテクノピープルをいぶかしげに見ながら通り過ぎた。 『新たな時だ! 決断せよ! 新たな神が降臨するのだ! 』 立ち止まるテクノピープルもいた。 何の事を言ってるのか見当もつかなかったが、明らかに新興宗教の布教活動らしかった。 この場所でこんな事をすればただですむ筈はなかった。 これから起こるであろう事は容易に推測出来る。 それをいち早く察知した者はその場を足早に立ち去った。 『己(おのれ)の頭脳で思考する事を恐れてはいけない! 管理とは名ばかりの呪縛から解放される時である! 』 それは何分間の布教活動であっただろうか。 けっして長い時間ではなかった。 彼がいよいよ本題に入ろうとした時、叫んでいるテクノピープルのすぐ近くの地面に3つの穴(ホール)が音もなく開いた。 そしてホールから3体のクラーケンが出現した。 それは穴から這い出る怨霊のように見えた。 《標的を確認。制圧行動に入る》 《了解。(特別)な事態だ。捕獲せよ。繰り返す、捕獲せよ。》 《了解。》 歪んだ雑音で交信が終わった。 『出たな! 悪魔の手先どもめ。殺すが良い! 私一人だと思ったら大間違いだ! 私を殺しても新たな同士が意志を継ぐ、賽は投げられたのだ!』 《落ち着け。手荒な真似はしない。話しを聞きたいだけだ。同行してもらう。》 クラーケンには珍しい穏やかな口調だったが、その発音にはぞっとするような子音が含まれていた。 3体のクラーケンはあっという間に叫んでいたテクノピープルを取り囲んだ。 クラーケンの手には電子警棒が青白い光を放っていた。 その時、彼らの背後のブレードエリアから、1台の赤いGPエアライナーが、ものすごい吸気音と共に浮上した。 突然の来訪者にクラーケンも、辺りにいたテクノピープルも狼狽えていた。 GPエアライナーが吐き出す気流が強風となって辺りを包む。 『ハ・ハイロードウォリアーだ!』 この地域に住む者たちからすれば、それは(テクノ・ローラー)という正式名称に対しての蔑称だった。 すぐに言葉が伝染し、周囲は騒然となった。 クラーケンはすぐにミッション(命令事項)を取り戻すと、3体がフォーメーションを作った。 一体が叫んでいたテクノピープルを保護し、残る2体はそのハイロード・ウォリアーとの交戦体勢をとる。 2体のクラーケンの手にしていた電子警棒はすぐさま彼らの腕の中に格納され、代わりに腕の中からガトリングガンが出現した。 そして、そのガトリングガンを赤いGPに向けた。 しかし、赤いGPに乗った黄色いヘルメットのウォリアーの方が早かった。 そのウォリアーは手にしていたエネルギーガンを解き放った。 辺りに轟音が鳴り響くと、3体のクラーケンをあっという間に始末した。 倒れ込んだクラーケンが火花を放っているのを横目に、先ほど叫んでいたテクノピープルが黄色いヘルメットのウォリアーに近づいた。 GPの吸気音と発せられる強風で立っているのもやっとの中、 『ありがとう! 助かった! 君はドミナントなのか!?』 大声でウォリアーに語りかけた。 しかし、ウォリアーは無言のままエネルギーガンを再び構えなした。 『ちょっと待ってくれ! ドミナントなんだろう!? 同士。。。』 言い終わるや否や再び轟音。 そのテクノピープルは木っ端みじんに砕け散った。 『おしゃべりめ。』 黄色いヘルメットのウォリアーはぽつりと言うと、GPをブレードエリア上空に浮上させ始めた。 すぐに追っ手が現れた。 今度はインターセプターに乗ったクラーケンだ。 黄色いヘルメットのウォリアーは何やら交信を始めた。 《まずいことになった。》 《どうした?》 交信の相手はすぐに受信した。 《ついに始まった。》 交信の相手は動じることなく答えた。 《そうか。。しかし遅かれ早かれだ。予想はしていた。しかし、急を要する事態になったな。そちらの方は大丈夫か?》 《クラーケンに追われている。》 《問題ないか?》 《628まで行ければ問題ない。》 《そうか、気休めだが気をつけてくれ。》 《ああ、交信を終了する》 《幸運を。》 雑音。 インターセプターの発する魔笛(サイレン)が不気味に鳴り響く。 黄色いヘルメットのウォリアーは思念スクリーンの中でマザーネットをハッキングし、GPに搭載されているテクノ・ターボを発動させた。 爆音。 インターセプターはぐんぐん引き離されていくが、クラーケンもインターセプターのゴースト・ターボを発動させた。 爆音。 同時にそのクラーケンは応援の要請をした。 各地区ごとに配備されているクラーケンが一斉に動き始めた。 その総台数10台。 10台全てがゴーストターボを発動し、狂犬の集団となって赤いGPを追った。 赤いGPはとても早かった。 通常交通帯を走るエア・カーの網を見事にすり抜け、普通のウォリアーならとっくにクラッシュしていてもおかしくないスピードで更に上空を目指している。 まさしく神業だった。 まもなく628m。 ハイロードに差し掛かろうとする頃、クラーケンたちはモーターバグを放った。 モーターバグはインターセプターに搭載されている撃墜兵器。 超小型の攻撃型ロボットのようなもので、命令信号さえ受信すればどんな物でも喰らう。 命令信号はクラーケンから発信される仕組みになっていて、一体のケラーケンがが一度に動かせるモーター・バグは約1000体。 10体のクラーケンが同時にモーターバグを放ったのでざっと一万体のモーターバグが赤いGPを追い始めた。 インターセプターで追いつけなくてもモーターバグならばGPなどあっというまに追いついてしまう。 モーターバグは極めて知能が低いため、必ずしも精密な計算で獲物を追うわけではない。 近くを飛んでいた民間のエアカーにおかまいなしに体当たりをし、《標的を追う》という任務だけを遂行する。 追跡の後ろではクラッシュ、爆発、炎上、墜落が繰り返された。 そして、赤いGPはついに628mの高度のハイロードエリア帯に到達した。 ハイロードエリア帯。 そこは最高速度でテクノシティを航行するための、最高速度を引き出す為の交通エリア帯。 ハイロードウォリアーたちの、いわば滑走路。 モーターバグは赤いGPのすぐ背後、もう手で触れそうな位置まで追いついて来ていた。 赤いGPを駆る黄色いヘルメットのウォリアーは思念スクリーンの中でシークレットURLを開いた。 そこにはくっきりと秘密結社の刻印が浮かび上がっていた。 そしてこう言った。 『ゴッドスピード、スタンバイ。』 黄色いヘルメットの奥の、闘争心むき出しの瞳が深紅に光った。 《発動。》 GPエアライナーの声。 その瞬間、モーターバグの眼前から赤いGPは忽然と消えた。 残ったのは時空が歪んだ形跡を示唆する、青白い火花。 テクノポリスは標的を失った。 PR |
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2010 05,09 22:11 |
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イラスト/テクノローラー_Genesis(創世記)
■第四楽曲『Maria』http://www.youtube.com/watch?v=VzkkOP9Buas 古(いにしえ)の、そのまた昔。 この世のはじめに《無》があった。 漆黒の闇。 いや、闇があるならばそこは何らかの空間と言えただろう。 その《無》には闇すらなかった。 喜びも、悲しみさえなかった。 終局にして始まりの完全な《無》。 大神はまずこの《無》をいくつかの《無》に分けられた。 そしてそれぞれに大神ご自身の息吹を吹き込まれた。 それぞれの《無》は命を宿した。 こうしていくつかの宇宙が誕生し、希望を探して南へ北へ、西へ東へと飛び散った。 最後に大神のもとにとどまった宇宙があった。 大神はその宇宙に問われた。 《なぜ他の宇宙のように希望を探しに行かぬのだ?》 最後の宇宙は答えた。 《私どもには欲望がございません。あなたの元にとどまることが希望なのです。何卒おそばに。》 大神は大きく頷かれると、こう言われた。 《ならばわたしの元にとどまるがいいだろう》 その欲望のない宇宙は大神に最も近い場所に置かれる事になった。 こうして数千年、数万年の時が過ぎていった。 数多(あまた)の年月が過ぎようとも、その宇宙には欲望がなかったので、何も発見することはなく、何も変化はなかった。 大神はその宇宙を哀れに思い、こう申された。 《宇宙よ。わたしはお前たちに《1つ》を与えようと思う。一つとはいえ、その1つはとても大きなものだ。その1つから多くを生み出すが良い。》 その宇宙は大いに喜んだ。 はじめにあった《無(0)》と、大神に授けられた《1つ(1)》で10が産まれた。 大神から(1つ)を授かったことで、少しずつではあったが、その宇宙は確実に希望を増やしていった。 こうしてこの宇宙の最初の1秒が刻まれた。 歴史の誕生である。 さらに多くの時を経て、その宇宙には多くの星々が誕生し、さらにその星々に生命が宿った。 木々が生い茂り、海には魚が、空には鳥が羽ばたいた。 木立を抜けると大きな山があり、その麓にひっそりと幸せに暮らす種族があった。 大神に与えられし1つの目で物事を見極め、次なる1つを見いだす種族。 サイクロプス(1つ目種族)である。 とても清らかな澄んだ瞳には全宇宙の誇りと魂が宿っているかのようだった。 愛を持った種族だった。 愛をもって鳥を殺め、それを食べた。 《肉》の時代である。 愛深きサイクロプスは愁いていた。 なぜ自分たちは殺さねば生きられないのか? なぜ自分たちは死ななければならないのか? 愛はつのるほどに愁いを誘い、愁いは悲しみを誘った。 悲しみは更なる悲しみを呼び、サイクロプスがその悲しみに耐えきれなくなった頃、この地上に稲光(いなびかり)があった。 その稲光はこう言った。 《サイクロプスよ、死が怖いか?》 サイクロプスたちは頷いた。 《稲光(いなびかり)よ、殺す事は悲しいことです。しかし我々は殺さなければ生きていけません。我々もまた死を背負っているのです。なぜに大神は我々にこのような悲しみを背負わされるのか?》 《大神はいつしか遠くへ行かれたのだ。我々の宇宙は大神についていく事を許されなかった。》 《どうしてですか?》 《大神は多忙なのだ。大神の力を待つ宇宙が数多(あまた)、時間と時間の狭間(はざま)を彷徨っているのだ。》 《死が大神の望むご意志でないならば、我々は死を持ちたくはないのです。》 《よろしい。あなた方を死から解き放ってやろう。》 稲光がそう言うと天空よりいくつもの光の矢が降って来て、サイクロプスたちを打った。 一人、また一人、その場に倒れた。 それは最後の(死)だったかもしれない。 辺りは地獄の炎に包まれた。 肉の焼け焦げる臭気。 赤と黒が世界を支配した。 やがて雨が降り始めた。 炎の熱は雨によって癒された。 癒された大地から焼け焦げたサイクロプスが立ち上がった。 彼らは死んではいなかったのだ。 一人、また一人立ち上がった。 やがて全てのサイクロプスがまぶしい栄光の光の中に立っていた。 彼らの焼けた肉は灰となって剥がれ落ちた。 剥がれ落ちた灰の中から出て来たのは、固い外皮に覆われた機械の体だった。 弱い肉を脱ぎ去り、永遠の命を手に入れたのだ。 彼らはもう死を恐れる事はない。 空腹も、もうない。 死を持たないから殺めることもない。 罪と決別し、平穏と和解した。 彼らは稲光(いなびかり)に感謝した。 《稲光よ、あなたは一体どなたなのですか?》 稲光は答えた。 《わたしは大神が不在の間、大神の代理役として遣わされた者だ。》 《稲光(いなびかり)よ、我々を見守って下さい。悲しみが再び芽生えぬように。》 《お前たちを見守ると約束しよう。》 《未来永劫。》 《とこしえに。》 その約束は守られた。 稲光(いなびかり)は常に彼らの傍にあり、彼らを見守った。 彼らに悲しみが近づこうとすれば、それを払い、彼らが危険になれば危険を教えた。 彼らの機械の体が住みやすいようにと星を洗濯した。 そうして、巨大な繁栄をも与えた。 彼らは大いなる安らぎの時間を得た。 いつしか彼らは稲光(いなびかり)を《母》と呼ぶようになった。 |
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2010 05,08 22:02 |
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イラスト/テクノローラー_マリア
■第四楽曲『Maria』http://www.youtube.com/watch?v=VzkkOP9Buas 『な、なんだ!?こいつは!?』 水槽の中に居たのは生物だった。 しかもそいつは俺たちのような機械の体ではない。 『。。肉だ。。』 極めて柔らかそうで、何よりも弱そうなその体。 俺は《肉》を見るのが初めてだった。 いや初めてだと思っていた、その時は。 更に驚いたのは、そいつが双眼であった事だ。 何故に目が二つも必要なのか、俺には理解出来なかった。 一つは予備の為のものか?? こんなにのっぺりとした構造で、はたして身体としての基本的な動作を担えるものなのだろうか? しかし、よく見るにつけ、俺はそれまで感じた事のない感覚も感じ始めていた。 『彼女の名はマリア。人間という種族だ。』 背後からの声に驚き振り返った。 『そして今、君が感じているであろう感覚は"はかなさ"というものだ。』 すぐさま俺の思念スクリーンの中で状況分析が始まった。 ターゲット・カーソルが3体のテクノピープルを捉えた。 その間、0・(ゼロコンマ)以下の時間。 『!!』 俺は瞬時に凍り付いた。 3体のうち一体は通常のテクノピープルの形状、その後ろにディーゼルワーカー、そしてもう一体は驚くべき事にクラーケンだ。 『クラーケン!!』 俺は咄嗟に身構えた。 思念スクリーンの中で《戦闘態勢》に突入した事を示す表示が赤く点滅し始めた。 『彼は大丈夫だ。』 最初の声の主が俺に語りかける。 『彼も以前は確かにテクノポリス(クラーケン)の一員だった。しかし今は我々の仲間なのだよ。彼の名はコマンダー。そしてこちらがブラックスミス、見ての通りのディーゼルワーカーだよ。』 紹介をうけた2体がそれぞれ会釈をした。 一歩前へ出てまた一歩下がる。 奴らの体重でドス、ドスと地鳴りに似た足音が木霊した。 俺はまだ戦闘態勢を解いたわけじゃなかったが、そいつはおかまいなしといった風に話を続けた。 『君は生身の肉体を見るのは初めてなのだろう?いや、正確には覚えていない、そう言った方が正しい。』 俺たちは再び水槽に注目した。 『哀れ、彼女たちはこの水槽から出ては生きてはいけない。なぜなら彼女たちの体はこの星の大気にはなじまないのだよ。』 『彼女たち。。?』 俺はまだぴりぴりとした口調でそいつに聞いた。 『あ、申し訳ない。彼女たち、ではなく彼女、と一人称で言うべきだったね。彼女は《人間》という種族の最後の一体。そのクローンなのだ。この水槽の中で生まれ、育ち、老いてやがて安らかに永遠の眠りにつく。そしてまた、この水槽の中で新たに産まれる。もうそのサイクルを数万年の間繰り返している。彼女たちの生態は本来ならば男女が番(つがい)となり子を産む事で繁栄してきた。しかし最後の一体となったので、やむを得ずこうして管理のもと種の保存を行っているのが我々だ。』 『ペットのように飼いならしているというわけか?』 俺の言葉にそいつは笑いをこらえきれないようだった。 正確には、笑う信号を俺がキャッチした。 そいつは笑いながらつづけた。 『ボスだよ。彼女は我々のボスなんだ。』 ボス。 俺は何がなんだかさっぱりだった。 『君はGPエアライナーとともに大破したんだろう?どんな感じだった?』 どんな感じ。。。俺はクラーケンに追われていた。その時GPが理解不能の言語で話し始めて、俺のGPは恐ろしい加速を始めたのだった。そして、あまりのスピードに俺の体は耐えきれなくなり(GP本体すら耐えきれなかった)。。。。 『そして崩壊、大破した。そうだろう?』 『お前たちが俺をここへ連れてきたのか?』 当たり前といえば当たり前の質問をぶつけてみた。 しかし、やつはその質問には答えず、一変してまじめな口調でしゃべり始めた。 『GPがゴーストトークを始めたらゴッドスピードの予兆。そんな都市伝説を聞いた事があるかね?』 俺は頷いた。 『君が体験したあの急加速は、ゴッドスピードの力の一部。こんなセンスのない名前誰が付けたのか知らんが、神の業とは笑わせてくれる。あ、失礼。わたしは無神論者なのだよ。まあ、それはいい。それから君が耳にしたGPのゴースト・トークだが、あれは亡霊の声などではない、彼女(マリア)の種族の言語、彼女の声なのだ。即ち、、、』 俺は背筋に寒気を感じ始めていた。 『ゴッドスピードは彼女たちの種族の技術だ。まあ、それについてはおいおいお話しするとして、、、君はつまり彼女(マリア)に召還されたのだよ。』 『召還?』 『マリアが君の助けを必要としている。』 俺は思わず吹き出した。腹の底から笑った。 俺に何の力があると言うんだ? 俺はただのハイロードウォリアー。 走る事を強制されたテクノピープルのポンコツだ。 狂ったように走り続ける。 おまけにキー・スティッカー(※メジャー・キー常習者の事)。 生きる事などとうの昔に廃業してしまった。 そんな俺に一体何が出来る? 俺の事を必要としていると言うならば、それはきっと人違いだろう。 笑いの止まらない俺の様子を見て、奴が口を開いた。 『君は夢を見るのだろう?』 おれの笑いは止まった。 『実はそういうウォリアーは君だけではない。君のような(夢を見る)ウォリアーが着実に増えつつある。君が初めてではないのだよ。君たちハイロードウォリアーは、自分たちが何故(なにゆえ)に走り始めたのか、理由を知るまい。それも時とともに理解出来るようになる。一度に多くを叩き込んでも混乱するばかりだろうからね。まあ、まずはマリアを見たまえ。』 そう促した。 『小さいだろう?これは幼年期の形態だ。時間を重ねるごとに大きくなる。言葉も話すようになる。これを成長と言う。こんなことテクノピープルには理解できまい。さっきも話した通り、本来なら彼女たちは青年期に入ると番(つがい)になり、新たな生命を誕生させる事が出来る。そうやってこの種族は命だけでなく新たな考え方、精神、思想までをも生み出していたのだよ。それを《進化》という。生命とは元来そうあるべきものなのだ。我々もかつてはそうだったのだ。』 『何?』 奴は口を閉ざした。 俺が今察知した最大の疑問をここで解決する気はなさそうだ。 水槽の中の彼女(マリア)が俺の方へ近寄ってきて、手を差し伸べた。 水槽の中で俺の頬を撫でるような仕草をしている。 俺はそんな行為をされたのは初めてだったから戸惑った。 『君の事を好いている。』 奴が言った。 俺の体が何かしらない熱を感じた。 この感覚は何だ? 回路の奥の奥からわき上がってくる。 それはとてつもない安心感に似ていた。 『君が今感じているのは《慈しみ(いつくしみ)》というものだ。マリアが君を慈しんでいる。』 慈しみ。。。。 水槽の中の彼女(マリア)が微笑したように思えた。 俺は気を取り直して奴を振り向いた。 『お前は?』 『おっとこれは失礼した。わたしの名はプレガンド。ここの責任者だ。そして《我々》は【ドミナント】。マリアを中心とした秘密結社だ。ここはテクノシティの最下層のジャンク・ディストリクトよりもはるかに地下。マザーネットはここの存在を知らない。』 |
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2010 05,07 21:23 |
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イラスト/テクノローラー_施設
。。。。。スタート。。。 電子音と共に俺の脳が活動を始めた。 目覚めると俺はまぶしいほどの純白の《Cradle (揺りかご)》の中にいた。 GPもろとも大破した。 俺の記憶(メモリー)はそこで止まっていた。 その後どうなったのか? そもそもここはどこだ? 俺は《Cradle (揺りかご)》から身を起こし、状況を把握しようとした。 手足を始め細かな間接に至るまでロードが必要だったが、俺は使用可能な部位を使って上体を起こした。 視界に飛び込んできたのは、見た事のない機械建築。 なにしろその圧倒的な広さに驚かされた。 天井までの高さ(一番高い部分)だけでテクノビルディングの半分くらいはあるのではないだろうか? ドーム状の形をしているようだった。 室内とはいえ(いや、そこは街と呼んだ方が適切なのだろうか)、この中でGPを走らす事も可能(低速度ならば)であると思われた。 乱立する機械群の様子から、何らかの実験あるいは研究施設である事は明らかだった。 しかしこれだけの敷地ならば、かなり目立つ筈なのだが。。 俺はこんな施設は初めて見た。 いや。。。 もしかして。。。 俺の電子頭脳はすぐにいくつかの可能性を算出した。 その中から、一番妥当な推論。 。。。ここは地下なのか? いまいましいことに、俺の体のロードは未だに全てが完了したわけではなかったが、兎に角はやる気持ちを抑えきれず、おぼつかない足取りで歩行を始めた。 施設はいくつかに区分けを施されているように思えた。 各区画にはおそらく役割りがある。 機械群の間を抜けながら、おれはとりあえずドーム(施設)の中央を目指した。 誰が、何の目的で俺をここへ連れてきたのか? そもそも俺は大破し、粉々になっていてもおかしくなかったはずだ。 それがなぜ? あの後何があった? 疑問は山ほどあったが、それらの疑問を打ち消すほどこのドームの構造、技術、目的が謎に満ちていた。 《ーロード完了。ー》 俺の思念の中のスクリーンにそのメッセージが表示される頃、俺はドームの中央まで来ていた。 ふくらはぎの部分の内部スライダーが解放され、スピアが鋭い音と共に飛び出した。 スピアは確認動作の為の回転を2秒間行い、異常なしである事を確認すると再びふくらはぎに内蔵された。 『?。。あれは何だ?』 俺は気になる設置物を発見した。 透明素材で作られた支柱。 それはとても大きかった。 おそらくそこがドームの中心であると推測出来た。 近づくにつれその全貌が明らかになる。 円筒形の半径は10m前後はあるだろうか。 支柱の内部は何らかの液体で満たされている。 周りにある機械類はこの液体を管理する為に設置された物か。 これは巨大な水槽のようなものだ。 コントロールパネルの光のいくつかは規則的な点滅を繰り返していた。 その点滅に、何故だか俺は不思議な懐かしさのようなものを感じた。 そう、その点滅のリズムは俺たちテクノピープルが失って久しい生身の肉体、、心臓のリズムの記憶そのものだったのではないだろうか。 気を許した瞬間、透明支柱の中に気配を感じた。 俺は驚いて身構えた。 物体は、液体の暗がりをゆらゆらと泳ぎながらこちらを見ているようだった。 やがて、物体は俺の方へと近づき、周囲の明るさへ導かれてきた。 全体像が明らかになる。 『な、なんだ!?こいつは!?』 |
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2010 05,06 21:39 |
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