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2010 05,17 18:35 |
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■第四楽曲『Maria』http://www.youtube.com/watch?v=VzkkOP9Buas 砂が吹き荒れていた。 あるいは、摩耗した都市の一部だったか。。。 いずれにせよ、ここにも生気の痕跡はない。 砂のベールの奥で光る瞳の群を除いては。 ナナリアン。 砂を纏(まと)う種族。 機械の体を持ちながら、マザーネットの加護からは遠く見放された種族だった。 ここには体を修復する為の《Cradle (揺りかご)》もない。 古くなった体を自ら解体し、新しい物へと交換することで生きながらえる種族だった。 時折、ジャンク・ディストリクトより使者がやってきては、彼らの採掘する鉱石を分けてもらうのだった。 鉱石はテクノシティのいたる所で使われる鉱物資源だった。 テクノビルディングを構成する原料は主にこの鉱石だったし、乗り物、果てはテクノピープルのボディまで、この鉱物資源が担っている。 その日、この地区に足を踏み入れたジャンク・ディストリクトからの使者は、いつもとは違う様相だった。 いつもなら、グループでやってくる筈だが。。。 その使者は一人だった。 『鉱石が欲しい、、、ナナリアン。』 使者は言った。 『イーズです。イーズと御呼び下さい。』 『イーズ。。鉱石を分けてほしい。ただ、この事は内密に。』 『はい。どのくらい必要なのでしょうか?』 『そうだな。10万ラセルほど。』 『そんなに!?《小型戦艦》でも拵(こしら)えるのでしょうか?』 イーズは驚いて、その使者の瞳を覗き込もうとしたが、フードに隠れていて、またマスクもしていたのでよく見えなかった。 『用途などいかがでもいい。調達出来るか?』 やや高圧的な態度ではあったが、イーズは狼狽える事なく答えた。 『調達出来ます。いつまでにご用意いたしましょう?』 『明日までに。別の者が取りに来る。』 『明日!!??』 イーズは更に驚いてしまった。 そんな大量の鉱石を明日までに用意するのは不可能ではなかったが、そんな乱暴な注文の仕方は初めてだった。 『何か、、、はじまるのですか?』 『お前は何も聞かなくていい。知らなくていいのだ。』 イーズは使者の言う通り、それ以上は何も聞かなかった。 遠くより、GPエアライナーの音が近づいてきて、使者の傍に止まった。 『ハイロード・ウォリアー!!』 イーズは思わず口にした。 この地区でハイロード・ウォリアーを見る事はほとんどない。 使者は、GPに乗ったハイロード・ウォリアーに何かを告げると、ハイ・ロードウォリアーは頷いているようだった。 『もし』 イーズはたまらなくなって声をかけた。 使者とハイロード・ウォリアーが、振り返った。 『あなたはハイロード・ウォリアーですね、見せていただけませんか?GPエアライナーを。』 ハイロード・ウォリアーは何も答えず、かわりに使者が言った。 『彼らテクノローラーに興味があるのかね?』 イーズは頷いた。 『なぜだ。』 『わたしも大空を翔てみたいと思うのです。』 使者がクスリと笑ったように思えたが、相変わらずその表情は見えなかった。 『この者たちはそんなものではない。走る事しか知らないただの木偶(でく)の棒よ。』 しかしイーズは 『皆、何かしらそうです。わたしも鉱物を掘削することしか出来ません。なぜならそれは母(マザーネット)が私どもに課した仕事なのですから。しかし、わたしは思うのです。ハイロード・ウォリアーのように大空を駆け、あの雲に近づいてみたい。上空から見下ろすテクノシティはさぞ美しいのでしょうね。』 『美しい?』 テクノシティの中では美しい、という表現をする者はあまりいないので、使者は少し不思議そうに言った。 『はい。私は時折夢を見るのです。それはウォリアーが翔るような上空から見下ろした光景です。私はいつも幸せな気持ちになります。やがて光の渦の中へ。。大きな弧を描きながら落下していくのです。』 ハイロード・ウォリアーは鼻で笑ったが、使者がそれを制した。 使者はまじまじとイーズの顔を覗き込んだ。 この時、フードの影から使者の瞳が一瞬だけ見えた。 一瞬だったが、イーズはその瞳の奥に澄み渡る青に、深い安堵感を覚えた。 『。。。気が変わった。別の者が取りにくると言ったが、お前が鉱石を運ぶのだ、ナナリアン。。。いや。。イーズといったな?』 『私が?』 『出来るか?』 イーズは少し迷ったが、運搬用の大型キャリア・トレインを持っていたし、それを使えば可能だと思った。 『はい、そのようにいたします。』 使者は向き直るとGPの後部に乗った。 ハイロード・ウォリアーは何も言わずにGPエアライナーを起動させた。 爆音。 砂塵。 GPエアライナーが吸気音と共に浮上した。 イーズはそれを憧れの眼差しで見つめているのだった。 ※公式サイト更新しました。 PR |
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2010 05,13 21:35 |
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イラスト/テクノローラー_VIsion(幻影)
■第四楽曲『Maria』http://www.youtube.com/watch?v=VzkkOP9Buas 静寂(しじま)が見える。 詩人たちの庭。 舟人(ふなびと)よ。 光に見いだされて闇へと踏み込む舟人よ。 牧歌は今いずこ。 迷い人(まよいびと)の海なき海。 闇から闇。 深淵から深淵へ。 神々の歩く速さで、時の川が浪々(ろうろう)と流れる。 大きく弧を描きながら、大海の渦の中心へ中心へ。 下降してゆく。 光の礫(つぶて)が誕生し、やがてまた灰となるは束の間。 それは闇を癒す優しげな銀河の歌。 その数多(あまた)を繰り返し、図らずも辿り着く。 詩人たちの庭に。 幻想が幻想を呼び、光の雲に抱かれ命へと導く庭。 まずは吸い込むがいい、大地の息吹を。 枯れたのどを潤し、大声で己の存在を証明せよ。 ※公式サイト更新しました。 |
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2010 05,12 21:30 |
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イラスト/テクノローラー_MONSTER(魍魎)
■第四楽曲『Maria』http://www.youtube.com/watch?v=VzkkOP9Buas まず、視界よりも先に聴覚が反応した。 俺の聴覚に飛び込んできたのは壮大な歌。 次に視覚が動作した。 俺は自分の正気を疑った。 それは膨大な数のテクノピープル。 数百万。。。 プレガンドの言った数のテクノピープルはここにいたのか。 数百万のテクノピープルが口ずさむ歌の周波が、ドームの空間という空間を振動させていた。 そいつらが隙間もないほどに並んで、うつろな状態でドームの中央に向かっている。 ドームの中央では何やら儀式が行われているらしい。 この距離からだと目視で計測出来ないが、なにやらおぞましい事が行われている雰囲気は察知出来た。 俺がこれまで数日間居たあの涼しげな階とはうってかわり、ここは黒が支配する闇の世界だ。 下方よりの光は眩しく、機械の規則的な発光ではなかったので妙に感じたが、その答えはすぐに出た。 俺たちの足下には床があったが、その床はドーム中央に伸びる大きな橋だった。 そしてその橋の下は溶岩。 燃え盛る溶岩が魍魎(もうりょう)たちを照らす唯一の灯りとなり、怒りと憎しみが地中より突き上げていた。 まさに地獄。 俺がもし体液を分泌出来る体であれば、畏怖の汁(しる)がにじんでいたに違いない。 俺とプレガンドは、魍魎たちの間をやつらと同じようにドームの中央に向かった。 俺は次第に落ち着きを取り戻し、ようやく周囲を少しずつ分析し始めた。 こいつらはなんだ。。。狂気に満ちてやがる。 それにこの歌。 俺はこの歌が(マリア)を賛美する歌である事に気付いていた。 俺の周囲の者たちも口々に彼女の名を旋律に乗せ、うつむきながら歩いている。 マリア。。。。マリア。。。マリア。。。。 それはぞっとする光景だった。 【これがドミナント。。。】 俺は思念スクリーンの中で呟いた。 俺は間違っていた。 ただのレジスタンスではなかった。 狂気の新興宗教集団だった。 怨霊ですらこの緊迫感には耐えきれまい。 【彼らはたしかにドミナントだった。以前はね。】 思念スクリーンでプレガンドが答えた。 秘密回線とはいえ、低い音域を使っていた。 【以前?】 【百年ほど前から兆候が現れ始めた。はじめはただ単にマリアに信仰を寄せる集団だった。数もたいした事はなかったのでさほど気にも留めていなかった。】 俺はまだプレガンドにすら完全に警戒を解いた訳ではない。 【彼らは《ユニゾン》。マリアを神と崇め奉る狂気の集団だ。こっちを見るな。。前を向いて歩くんだ。】 俺はプレガンドの言う通りにした。 【それから、彼らと(目を合わせて)はいけないよ。けっして。】 【あんたと奴らが違うと言う保証がどこにある。】 俺は冷ややかさを込めて奴に言った。 【昔は仲間だった。ドミナントとして同じ秘密を共有し、共にマリアの保護に勉め、長い年月をかけてこの地下施設を作ってきた。しかしマリアの慈しみに触れるにつれ、彼女への愛が極限まで高まった者たちがいた。愛が悲しみとともにあるならまだマシだった。マリアのような、生と死を持つ神秘の肉体を脱ぎ去った悲しみと共にあるならば。。。。しかし彼らの愛は怒りや憎しみと共にあった。その怒りや憎しみの矛先は当然の如くマザーネットへと向けられた。。その為の軍備も進められている。】 【軍備。。】 【そうだ。信仰とともにそれらの技術も発展した。しかし信仰とはいえ、彼らは盲目的にマリアを信奉しているに過ぎない。自分たちも儀式を重ねれば、彼女のように再び(肉)を纏えると思っているんだよ。】 【そんな事が可能なのか?】 【いや。無理だ。我々ドミナントは永きにわたりその研究を続けた。彼女と友好的な対話を重ね、彼女の生態を解剖する事なく外側から分析した。研究の段階で発明されたテクノロジーもいくつもある。彼女の遺伝子との融合も試みたが失敗だった。我々と彼女とでは決定的に違うのだよ。】 【それは何だ?】 【。。。魂、、、とでも言おうか。】 【何?】 突如、ひと際大きなマグマの破裂が、俺たちの後ろにいた奴を襲った。 炎に包まれながらそいつは喜びに満ちた声でマリアの名を叫び、煉獄へ落ちていった。 オオオオオオ。。。。 周囲から、叫びが広がった。 そしてマリアを讃える歌はより一層強大さを増した。 マリア。。マリア。。。 【歩くんだ。止まらずに。】 プレガンドは続けた。 【今や施設の最下層(つまりこの階層)と一つ上の階層は彼らユニゾンによって掌握された。上の階層は軍備施設だ。彼らは増大の一途を辿っている。我々は恐れたよ。彼らは狂気そのものだ。いずれ地上に出て、布教活動を始めるのではないか。そうなればマリアの存在はマザーネットの知るところとなり、この施設の発見も時間の問題となるだろう。我々はこの数年警戒態勢をとって来た。それはいつ始まるのか。そして一昨夜、テクノシティに潜伏していた我々の仲間から『始まった』と連絡があった。ユニゾンが地上での活動を開始した。】 しかし疑問があった。 【マザーネットはなぜマリアを狙う?】 おれは奴に聞いた。 【(創世記)の話をしたね。】 【ああ。】 【あの創世記によって隠蔽(いんぺい)された歴史があったとしたらどうだろう?】 【隠蔽された歴史だと?】 俺の電子頭脳の中で記憶と言う記憶が交錯し始めた。 太古から現在に至るまでの、悲しみや痛み。 そういったネガティブな領域が俺を占領し始めた。 こんな時に。。。!! 俺はこの時ほど自分がキー・スティッカー(※メジャー・キー常習者の事)であることを呪った事はない。 俺の体は新たな薬物を欲しがる地雷を踏んでしまった。 手が小刻みに震え始めたので、気付かれないようローブの中に隠した。 禁断症状だ。 プレガンドの声が奇妙なエコーを伴って聞こえるようになってしまっていた。 いうことをきけ!! おれは自分の体に言って聞かせた。 俺がもしここで、この禁断症状に耐えきれなくなって発狂した状態を連中のまえに晒したら、、 その異変にこの魍魎どもはどう反応するのだろうか? 俺だけじゃなくプレガンドもただではすまないだろう。 いや。。。 こいつは俺の事を見捨てるだろうか? 《ゼロツー。。。ゼロツー。。。》 背後から俺を呼ぶ声がして振り返った。 そして俺は。。。 プレガンドが【けっして見るな】と言った奴らの瞳を覗き込んでしまった。。。 憎しみに燃えた目。 それはマグマだった。 その目はニヤリとわらうと、 《居た。。。。》 そう言った。 地の底からにじみ出るような太鼓の音が俺を打った。 1つ。。 ズム。 2つ。。 ズム。 魔拍子(まびょうし)は次第に速度を増す。 ズム。ズム。ズム。ズム。 その速度が俺の内部の循環器のリズムを超えた時、思念スクリーンの中で警告音が鳴り始めた。 魔拍子が頂点に達した。 次の瞬間、地底から生身の肉を纏ったコウモリが一斉に飛び立って俺をめがけて飛んできた。 俺は必死になってそれを払った。 ついにドームの中央の司祭らしきテクノピープルが俺に気付いた。 こちらを睨んでいる。 憎悪。 憎悪の目だ。 炎。 こんな目を見たのは初めてだ。。。 これほどまでの憎しみを抱える事が出来るものなのか。。。 俺は霊力に呪縛されていた。 そいつは言った。 《待っていたぞ。》 ゼロツー。 【ゼロツー。しっかりしろ、もうすぐだ。】 プレガンドの声で俺は我にかえった。 幻覚。。。 いやしかし、もう幻覚と現実の区別すらつかない。 地鳴りのような歌が俺の電子頭脳を麻痺させはじめていた。 はやく、、はやくこの歌から逃れたい。 【彼だ。彼が司祭だ。】 プレガンドが言った。 俺はそいつを見上げた。 そいつは通常のテクノピープルの倍はあろうボディを持っていた。 おそらくクラーケンといえどこいつには適わないのではないだろうか。 モンスター。 そんな形容が相応しかった。 俺はフードの境から、目を合わせないようにそいつの瞳を見た。 幻覚と同じ憎悪の目だった。 【彼の名はルシファー。この狂気の発信源だ。】 テクノピープルは列を作ってルシファーの元へ行き、祈りを捧げるとその足下から何かを拾い上げているようだった。 何を拾っているかは確認出来なかった。 大事そうに懐にしまうと別の橋で帰っていった。 時折ルシファーによって選り分けられた者がいた。 その者は五体を鎖につながれると五方向に引き裂かれ、亡骸はマグマに放り込まれた。 生け贄だった。 殺人儀式。 【ああすることで自分たちの中に《霊波(れいは)》を取り込めると思っている。まやかしの術だ。】 俺たちの順番が来た。 俺は前にいた者と同じ行動をした。 ルシファーの足下にひざまずき、(形だけの)祈りを捧げた。 プレガンドも同様だった。 生け贄に分類されるのではないか気が気じゃなかった。 しかしプレガンドは 【大丈夫だ。我々が生け贄になる事はない。彼は私を知っているから。】 と言った。 言葉通り、俺たちは生け贄にならずに済んだ。 そして振り向き、前にいた者と同様に拾い上げる物を見た。 それを見て俺は時間が止まったように思えた。 その物体はメジャー・キーのコンパクト・アンプル(すぐに使用出来る針のついた状態のアンプル)じゃないか。。。。 前にいた者が振り返った時、一瞬だったが目が合ってしまった。 いや、一瞬だったが俺ははっきりとそいつの目を見た。 そいつの瞳は小刻みに震えていた。 こいつらはキー・スティッカー(※メジャー・キー常習者の事)だ。。。 俺は。。 俺は。。。 【どうした?拾いたまえ。】 プレガンドが秘密回線を通じて背後から語りかける。 俺は動けずにいた。 困惑していた。 しかし禁断症状は限界に近い。 すぐにでもこいつをやりたい。。 【何を躊躇している。誰も咎めはしない。ここでやりたまえ。それは許されている。】 俺はメジャー・キーを手に取ると、コンパクト・アンプルの針を自分の眼球に刺した。 激痛。 いや、今は。。 眼球の激痛よりも、声を発したい。その方が苦痛だった。 俺は必死になって痛みと声を自分の中に封じ込めた。 やがて、、、 夜が明けるのだろう。 それまでは、、 何も感じずにいたい。 ※公式サイト更新しました。 |
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2010 05,11 23:30 |
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イラスト/テクノローラー_Emergence(創発)
■第四楽曲『Maria』http://www.youtube.com/watch?v=VzkkOP9Buas 『気分はどうだい?ゼロツー。』 プレガンドが《Cradle (揺りかご)》で治療(リハビリ)を受けていた俺に語りかけてきた。 『まだワイヤーシリンダー(筋肉)が固い。。。』 『まだ馴染んでいないのだろうね。すぐにスムーズに体を動かせるようになる、今まで以上にね。』 《機能回復は順調です。現在70%。》 俺に付き添っていたドクター・ボット(機械医師)が言った。 こいつらは俺たちと違って純粋な機械のようだった。 『そうかい?ドクター、私にはもうかなり完全に近い状態に見えるが。』 プレガンドはそう言って笑った。 《完全回復にはワイヤーシリンダー形成率40%、間接稼働コイルのエネルギー注入が30%、エネルギー循環系統、、、、》 『はっはっは、了解したよ、ドクター。』 《総合して30%の回復が必要。。。。》 『歩行器を用意してくれるかい?ドクター。ゼロツーに見せておきたいものがあるんだが。』 《用意します。》 そう言うとドクター・ボットは俺が横になっていた《Cradle (揺りかご)》を操作した。 あれから数日経つが、何の進展もなかった。 何の情報も与えられず、外に出る事も許されてはいなかった。 『まずは身体機能の回復が先だね』、そう言ったきりプレガンドの顔を見るのも久しぶりだった。 幽閉されたような状況に、俺は少なからず感じたイライラを隠せずにいた。 《Cradle (揺りかご)》のロボットアームが降りて来て俺の腰から下に歩行器をあてがった。 更に横から別のロボットアームが出て来て固定材を施した。 《歩行器のマウント完了しました》 ドクター・ボットが言った。 『ありがとう、ドクター。どうだい?歩けるかい?ゼロツー。』 歩行器のおかげでスムーズに動けた。 『問題ないようだね。申し訳ないが君の外皮の形成にはまだ時間がかかる。ブラックスミスが今それを構築中だ。完成すれば与えられた専用のURLで外皮を呼び出せるようになる。それまでこれを纏っていてくれないか。』 そう言って黒いローブを俺に手渡した。 リハビリ区画を出るとプレガンドと歩いた。 あいかわらず、この施設には俺たち以外の気配がない事に気付いていた。 『この施設の中ならこの数日の間に見た。』 プレガンドの見せたいと言うものに興味がない訳ではなかったが、幽閉されていたイライラからそう言った。 プレガンドはそれを察したように 『すまないね、沈黙していた事を謝罪しよう。しかし、君の身体能力の回復の方が最優先の問題だったからね。』 『ドミナントとか言ったな、目的は何だ?』 『ん。それもまず君には話しておかなければならないね。でもまずこの地下施設について話しておく事が先決だろう。ここには約550万人のテクノピープルが生活している。』 『何?』 驚きを隠せなかった。 周りを見ても俺たち以外には気配を感じない。 『どこにそれだけの。。』 しかし、それについてプレガンドは答えず、話を続けた。 『君も(創世記)を知っているね。全ての者に配布される、テクノピープルの根源について記述したテキストだ。』 『勿論。』 特に興味はないが。 プレガンドはつづけた。 『(いつしか彼らは稲光(いなびかり)を《母》と呼ぶようになった)。。ここで言う(母)というのがマザーネットを意味しているのは理解出来るね?』 『ああ。』 『天から稲光(稲光)が降りて来て、サイクロプスが望むとその体を機械の体へと変化させ、テクノピープルとマザーネットは共に生きる事になる。そうだね?これを君はどう思う?』 『あれはただの教典だ。事実は違う。事実はサイクロプスがマザーネットを構築した、というんだろう?』 『そうだ。肉体を脱ぎ去った時、その機械身体を維持管理する為に張り巡らされたシステム。それがマザーネットだ。やがて彼らは身体の管理以外の事もマザーネットに任せるようになった。マザーネットの管理がなければ、テクノシティは100年ともたないだろう。』 馬鹿でも知ってる事だったが、俺は黙ってプレガンドの話を聞いた。 『今や地上のテクノピープルのほとんどがマザーネットの信奉者だ。完璧な管理の恩恵で何の不自由もない生活を約束されている。そう言った意味ではマザーネットは確かに崇拝に値するのかもしれないね。しかし、地上の彼らは話す言葉、行動パターンまでもコントロールされている事に自分たちは気付いていない。ここにいる者は全てマザーネットのコントロールから逃れた者たちなんだ。身体の管理も含め全て自ら行わなければならない。】 【地上とは完全に遮断されている訳だな。】 【完全に、と言う訳ではない。ただし地上に出る際、たいていの者は一旦ここでのメモリーを消去される。一部の記憶を残してね。全て消去したら戻れなくなってしまうからね。記憶はコピーを取ってデータバンクに保存されているから、ここへ戻って来たら、また以前の記憶を復活させる事が出来る。】 【不便だな。】 【そうでもないよ。必要ものは大概揃っているしね。ここは一つの街だと言っても過言ではない。】 うっすらとこいつらの魂胆が読めてきた。 つまりドミナントというのはただのレジスタンスなのではないか、と考える。 笑わせてくれる。 たかだか数百万のレジスタンスに何が出来る。 それほどまでにマザーネットの力は強大だった。 以前にもそんな集団がいない訳ではなかった。 しかし、地上ではテクノピ-プルの目、そのものがマザーネットの監視の目だと言ってもいい。 すぐに発見され、制圧される。 街は30分と経たずに平和を取り戻す。 『さて。』 プレガンドが立ち止まった。 『ここからさきは声に出して話してはならない。君とわたしとの間に独立した秘密回線を引いておいた。以後、会話はこの回線を使用してほしい。テストをするよ。』 プレガンドがそういうと、俺の思念スクリーンの中でその秘密回線が開いた。 何やら奇妙な刻印も確認出来た。 【聴こえるかい?】 【ああ、聴こえる。】 【よろしい。問題ないね。では行くよ。】 【。。。どこへ?。。】 俺が言い終わるやいなや、四方の地面が割れ俺たちの四方を囲うと、俺たちは床ごと降下を始めた。 【エレベーターか ?】 【そうだよ。】 プレガンドは黙った。 俺はそれまでいた場所が施設の全体ではなく、別の階層が存在する事に少し驚いていた。 エレベーターは降下を続けた。 外は全く見えないが、体感出来る情報から分析すると(完全に正確な数字ではないが)おおかたの速度と距離の算出は出来た。 俺たちは、おそらくかなり速いスピードで、この施設の地中深くを目指している。 【施設にはいくつかの階層がある。それは君がいた階層と同様、すべて同じドーム型をしているよ。これは上から受ける重力を拡散する為の構造だ。】 プレガンドが言った。 【これから行くところはその最下層。】 プレガンドは俺と目を合わせる事なく、前を見たままそう言った。 【そろそろ言ってくれないか?ドミナントってのはレジスタンスの事なんだろう?】 俺は半ば皮肉まじりに聞いた。 それに対してプレガンドは口調を変化させる事なく淡々と答えた。 【ドミナントの結成は今から約1万年前。(マリア)の存在が発見された事に始まる。われわれが彼女を発見する以前、彼女は更に数万年の間ひとりだった。彼女が発見された経緯についてはおいおいお話しするが、我々が驚いたのは彼女の記憶の底に沈殿していた、我々と彼女たち(人間)に関する情報だった。この情報は我々の存在に大きく関与する。それは失われてはならない情報だと認識された。以来、我々はマリアを守るべく地中深くに潜伏した。】 【守る?誰からだ?】 【マザーネットだよ。(魂)の復興の為、マリアの保護が最重要課題だった。】 【魂の復興?なんだそれは?】 【それを今ここできみに話すつもりはない。それより、今は何が脅威なのかを理解する時だ。】 【脅威?】 【急を要する事態になったのでね。】 エレベーターが止まった。 【くれぐれも言っておくが、けっして声に出して話してはいけない。】 プレガンドがそう言うと、俺たちの四方を取り囲んでいた壁が一斉に床に収納された。 そして俺は、目前の光景に驚愕した。 |
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