夜中、暗い小道を歩いているとアスファルトで断末魔の蝉がバタバタしてた。
遠くからヘッドライトが近づいてくる。
そのタイヤの軌道上に蝉がいるか？
瞬間、なにか命というものに、これまた僕のちっぽけな共感が生まれた気がした。
たすけてやるか？
しかし間に合わない。
では祈るか。

祈りが通じたようだ。
タイヤは蝉を踏みつぶすことなく通り過ぎた。

近寄って、その蝉を道の脇に蹴ってやろうと思った。
見た所残りわずかだが、声だけは立派。
余生を命のアジテーションに費やすがいい。
と、、
ヴィーーーン!!!!
と飛び去った。

『なんだよ!!飛べるんじゃねえか!!!』
温存された力か。
それともひねり出したエネルギーか。
いずれにせよ、強烈なエネルギー。
その懸命さにすこし感動した。

今日、もう終わったと思った蝉が、再び飛んだ。
だから、生きる事は残酷なものだと思った。
でも、生きると言う事は美しい事だとも思った。

[3回]